JRA宝塚記念(G1)武豊「最低人気」でゴールドシップに真っ向勝負…レジェンドが初体験の「屈辱」に見せた意地
26日、阪神競馬場では上半期の総決算、宝塚記念(G1)が行われる。今年はG1馬5頭を含めた重賞勝ち馬15頭という好メンバーが揃った。
ディープインパクトで制した2006年以来、16年ぶり5度目となる春グランプリ制覇を狙うのは武豊騎手だ。
武騎手がコンビを組むのは全5勝を小倉で挙げているアリーヴォ(牡4歳、栗東・杉山晴紀厩舎)。前走の大阪杯(G1)は、C.ルメール騎手に替わって急遽コンビを結成し、単勝オッズ47.5倍の7番人気ながらも「クビ+ハナ」差の3着に導いた。
今回も『netkeiba.com』の予想オッズでは8番人気と伏兵扱いは変わらないが、53歳の鞍上を背に再びアッと言わせる走りを見せられるか。
武騎手にとって宝塚記念騎乗は実に29度目。8番人気以下の馬には過去6度騎乗しているが、馬券に絡んだことはない。それでも14年には12頭立ての最低12番人気ヒットザターゲットで健闘した。
8年前の宝塚記念は、ゴールドシップ、ウインバリアシオン、ジェンティルドンナが人気を集め、3強を形成していた。1番人気に応えたゴールドシップはテン乗りの横山典弘騎手に導かれ、前年に続き春のグランプリ連覇を達成した。その一方で、3強の残り2頭は荒れた阪神の馬場に苦しみ馬群に沈んだ。
2着に9番人気カレンミロティック、3着には8番人気ヴィルシーナが入り、三連単は25万超えの波乱となったが、このレースでヴィルシーナからクビ差の4着に健闘したのが武騎手騎乗のヒットザターゲット(当時6歳)だった。
10歳まで現役を続けたキングカメハメハ産駒のヒットザターゲット。重賞を通算4勝するなど、当時の中長距離重賞では常連といえる存在で、ラストランとなった18年には重賞連続出走40回というJRA記録も樹立している。また、9勝中7勝をローカルで挙げた小回り巧者で、小倉で3勝しているところはアリーヴォとも重なる。
前年の宝塚記念にも出走していたヒットザターゲットだが、その時は11着。直近の天皇賞・春(G1)で15着に大敗していたこともあって、シンガリ人気で臨んだ3度目の宝塚記念だった。
レジェンドが初体験の「屈辱」に見せた意地
実は武騎手がG1で最低人気馬に騎乗するのは、この時がキャリア初めて。そんなレアな一戦で、武騎手は人気薄だからこそできる思い切った騎乗を見せた。
4枠4番から好スタートを決めたヒットザターゲットと武騎手。先行馬を前に見ながら迷わず内ラチ沿いぴったりにつけ、後方待機策を取った。ハナを切ったヴィルシーナがスローペースに落とし、道中は淡々とした流れ。結果的に先行馬が上位を占める前有利な展開だった。
掲示板に入った5頭の中で後方から脚を伸ばしたのはヒットザターゲットだけ。ウインバリアシオンなど上位人気各馬が外々を回したのに対し、武騎手はまさに泰然自若。終始後方のインで末脚を温存し、直線に入るとそれを一気に爆発させた。
実はこのとき武騎手は残り250m地点で外に進路を変えている。前にスペースがあるようにも見えたが、結果的にそのままインを突いていれば、前が壁になって掲示板も確保できなかっただろう。
外に持ち出した際に一瞬減速する形にはなったが、手応えは十分ですぐに再加速。ゴールドシップには離されたものの、ゴール前はヴィルシーナに詰め寄っての惜しい4着だった。
ヒットザターゲットは宝塚記念に5度挑むなど、G1には通算14回出走したが、そのほとんどが2桁着順。この時の4着が同馬にとっては生涯最高着順となった。G1では明らかに能力不足だった同馬の持ち味を最高の形で引き出したのがこの時の武騎手だったといえるだろう。
あれから8年。53歳になった武騎手は自身6度目のダービー制覇を果たすなど円熟味はさらに増している。今年の宝塚記念ではいったいどんな芸当を見せてくれるのか。その時を楽しみに待ちたい。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。