物議を醸すディープボンドの「皮肉」な乗り替わり
今秋にフランスの凱旋門賞(G1)に出走を予定しているディープボンド(牡5歳、栗東・大久保龍志厩舎)だが、その鞍上が川田将雅騎手となることが21日に明らかになった。
ディープボンドは昨年にもフランス遠征を敢行しているが、その際は前哨戦のフォワ賞(G2)、本番となる凱旋門賞と共に外国人の騎手が騎乗していた。これに対し、前哨戦を使わない直行ローテで挑む今年はリーディングトップを独走する川田騎手を鞍上に迎え、まさしく“チームジャパン”として大舞台へと挑むこととなる。
川田騎手は近年では海外のG1でも結果を残しており、凱旋門賞にも過去に3度の騎乗経験がある。また、川田騎手は日本でも随一の“追える”騎手であり、エンジンのかかりが遅い一面を見せるディープボンドとの手も合いそうだ。海外での経験値や騎乗スタイルから考えても川田騎手は適任といえる存在であり、新コンビでの偉業達成に向けて期待が高まるばかりである。
しかしながら、ファンの間ではこの新コンビの発表が物議を醸している。特にこれまでディープボンドの主戦を務めてきた和田竜二騎手とのコンビを応援していたファンからは、この乗り替わりに疑問を呈す声が。各種SNSでも「昨年のように現地の騎手だと思っていたが、テン乗りの川田騎手ならば和田竜騎手でも…」といったコメントが多く見受けられた。
ディープボンドは国内のレースでは3歳時の皐月賞(G1)以外の全てのレースで和田竜騎手が騎乗しており、この人馬のコンビはファンの間でも人気を博していた。和田竜騎手にとってもディープボンドは特別な存在のようで、前走の宝塚記念(G1)に向けた追い切りの際には滞在中の函館から滋賀県の栗東トレセンまで駆けつけていたことからも思い入れの強さが伺える。
一方でディープボンドと和田竜騎手はこれまでにG1レースで3度の2着を経験しており、“勝ち切れない”コンビであったことも事実。念願のタイトルへ幾度となく迫りながらもチャンスを逃している現状を見かねて、鞍上変更で新味を出したいと陣営が考えても不思議ではない。
特に今年の天皇賞・春(G1)は実質ディープボンドとタイトルホルダーの一騎打ちの構図であり、タイトル獲得へこれ以上ないチャンスであった。陣営も当然ここでのG1制覇を期待していたはずだが、結果はタイトルホルダーに1秒以上の差をつけられて2着に敗れた。仮にここで勝ち切ることができていれば、凱旋門賞での和田竜騎手の継続騎乗も可能性があったかもしれない。
今回の乗り替わりの一因とも考えられる天皇賞・春であるが、思い返せばこのレースでのディープボンドの敗因の1つとなったのは他でもない川田騎手であった。このレースではシルヴァーソニックに騎乗した川田騎手であったが、スタートして早々に落馬。その後シルヴァーソニックはカラ馬のまま、ハナを切ったタイトルホルダーの番手に位置取り3200mの長丁場を走り続けた。
カラ馬がまさかの絶好位につけたことで、後続の馬は不測の事態に備えて積極策を取ることが難しくなってしまった。結果的にタイトルホルダーに競り掛ける馬は無く、これが楽に逃げたタイトルホルダーの圧勝劇に繋がった面もあるだろう。
この時に川田騎手の落馬が無ければレースの展開も変わっていたはずで、タイトルホルダーとディープボンドの決着もまた違った形になっていたかもしれない。もしこの時の敗戦が要因でディープボンド陣営が和田竜騎手の降板を決断したとすれば、凱旋門賞で手綱を握るのが川田騎手というのは皮肉なものである。
もちろんこの話は可能性の1つであり、今回の乗り替わりの真意は関係者のみぞ知るところだ。ただし先述の通りファンの間では今回の件は賛否両論であり、仮に凱旋門賞で不甲斐ない結果となれば「和田竜騎手が乗っていれば…」という声が上がることは避けられないだろう。
ファンの手のひらを返すような好騎乗を見せることができるのか、凱旋門賞でディープボンドに騎乗する川田騎手の手綱さばきに期待したい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。