期待の女性騎手が立て続けの「背信」、遠のく重賞初騎乗
8月を迎え、早いもので夏競馬も折り返し。今週末には夏の新潟開催の名物重賞・アイビスSD(G3)が行われる。中央競馬唯一の直線・1000mという条件で行われる重賞であり、ファンにとっては楽しみな1戦だ。
さらに今年は藤田菜七子騎手がスティクス、今村聖奈騎手がオヌシナニモノとのコンビで参戦する予定。両馬とも無事に出走が叶えばJRAの重賞では初となる女性騎手の対決が実現するとあって、今年のアイビスSDは例年以上に注目を集めることとなりそうだ。
だがその一方で、先週末の競馬では重賞初騎乗へ近づくビッグチャンスを得ながらも、それを掴むことができなかった女性騎手がいた。それが古川奈穂騎手だ。
古川奈騎手は24日の札幌メイン・大雪H(3勝クラス)で2番人気のステイブルアスクに騎乗。ステイブルアスクはデビュー戦以来ほとんどのレースで古川奈騎手が騎乗し、同騎手を背に1勝クラス、2勝クラスで勝利を掴んでいる。古川騎手にとっては自らの手で勝ち上がりに導いてきた“お手馬”といえる存在だ。
しかし格上挑戦となった前走のマーメイドS(G3)では一転してテン乗りで藤岡康太騎手が騎乗。一時は古川奈騎手の重賞初挑戦の可能性も噂されたが、待望の重賞での騎乗は叶わなかった。
ステイブルアスクを管理するのは古川奈騎手の師匠でもある矢作芳人師であり、前走での乗り替わりは師匠から直々に「重賞ではまだ早い」と判断されたとも捉えられる。直属の師匠から下された判断には、古川奈騎手も思うところがあったはずだ。
遠のく重賞初騎乗
こうして藤岡康騎手が騎乗して臨んだマーメイドSであったが、格上挑戦ながら5着に好走したステイブルアスクは、重賞でも通用する力を示した。今回は自己条件、さらに本来主戦場としているダートに戻っての一戦ということで、まさに勝ち上がりへ必勝を期す舞台。ここを勝利してOP入りを果たせば、再度の重賞挑戦も視野に入るという中で、自身に手綱が戻った古川騎手にとっては格好のアピールチャンスであった。
しかし結果は10頭立ての6着となり、掲示板にすら食い込めない惨敗。道中は最後方でレースを進めると直線では後方から怒涛の追い上げをみせたが、その豪脚を結果に結びつけることはできなかった。
更にこの日の古川奈騎手は7R、8Rの1勝クラスのレースで共に1番人気に支持されたアスクビックスター、グランスラムアスクに騎乗するも、それぞれ着外に惨敗。この2頭は“アスク”の冠名からも分かるようにステイブルアスクと同じ廣崎利洋HDの所有馬であり、加えてこれらの馬は全て矢作師の管理馬でもある。
師匠である矢作氏は当然だが、実は廣崎オーナーも古川奈騎手を支えている存在である。古川奈騎手は今年、廣崎利洋HDの所有馬に計20度騎乗しており、これは古川騎手の全騎乗数138鞍の約15%もの割合を占めている。
先週日曜に勝ち負けを狙える3頭の手綱を任せていることからも、廣崎オーナーと矢作師が古川奈騎手へ寄せる期待の大きさが伺える。しかしながら古川騎手はその3頭で結果を残すことができず、期待を裏切る形となってしまった。
先日、新人の今村聖奈騎手がCBC賞(G3)にて重賞初騎乗・初制覇を果たした際には、「すごいなと思ったんですけど、悔しい気持ち、負けてられないなという気持ちもありました」と率直な感情を吐露した古川奈騎手。その気持ちが焦りと変わり裏目に出た面もあるのだろうか…重賞初騎乗のチャンスを掴むには絶好のアピールチャンスで、師匠と懇意のオーナーからの信頼を積み上げることは叶わなかった。
先週は苦い結果となった古川奈騎手だが、今年は現時点で8勝を挙げ、既に昨年の7勝を上回る勝利を挙げているように着実に成長を見せている。後輩の大躍進や期待を裏切る惨敗など悔しい経験が続いているが、それらをバネに更なる飛躍を遂げてほしい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。