武豊も味わった「お手馬激変」の屈辱、安藤勝己氏の指摘に福永祐一も立場なし?
13日、阪神競馬場で行われた秋の女王決定戦・エリザベス女王杯(G1)は、C.デムーロ騎手の4番人気ジェラルディーナ(牝4、栗東・斉藤崇史厩舎)が優勝した。
同馬は、初重賞勝利を決めた前走のオールカマー(G2)に続く重賞連勝。10月29日から短期免許で騎乗しているC.デムーロ騎手にとっても、今年のJRA重賞初勝利がG1となった。
「大外枠でしたが、特にレースプランは考えず、どういうポジションで行くかはスタートしてから考えました」
会心の勝利をそう振り返ったC.デムーロ騎手だが、当日の天気も大きく味方をしてくれた。
前日土曜の阪神は午後に行われた芝のレースで逃げ切り勝ちが3連発した。内から伸びる馬に対し、外を回した馬が届かないケースも多かったのだが、昼前から大雨のあった日曜は馬場状態が急激に悪化。外から末脚を伸ばした馬が好走したエリザベス女王杯は、完全に外有利の馬場へと変わっていた。
その一方で、ジェラルディーナにとって騎手との相性に触れたのが、元JRA騎手の安藤勝己氏だ。
安藤氏は自身のTwitterにて「テンションは相変わらずやったけど、前走とは真逆の競馬で勝っとるで、素質が完全に開花した」とジェラルディーナの本格化を確認。続けて「クリスチャンが最後まで馬場のいい所を選んで、初コンビであれができるんやから大したもん。前走のタケシ然り、先入観を持たずに一流が感性で乗ったほうがいいタイプなんやろね」と感心していた。
そこで注目したいのは安藤氏がジェラルディーナに対し「先入観を持たずに一流が感性で乗ったほうがいいタイプ」と評したことだ。
振り返れば、オールカマーもエリザベス女王杯も横山武史騎手、C.デムーロ騎手といった初騎乗のジョッキーでジェラルディーナは勝利していた。レース後にも前者は「距離的に折り合いを心配していたのですが全然そんなことはなく、走ってしまえば優等生、そこが強みだと思います」、後者は「特にレースプランは考えず、どういうポジションで行くかはスタートしてから考えました」とコメントしていたように、どちらかというと臨機応変な判断で勝利を掴んでいる。こういった点が安藤氏の言う通り「感性で乗った」ということなのだろうか。
安藤勝己氏の指摘に福永祐一騎手も立場なし?
これに対し、安藤氏の「辛辣」な見解で立場がないのは、3走前までジェラルディーナの手綱を取っていた福永祐一騎手である。
同騎手はYouTube チャンネルの『カンテレ競馬』で「教えて!福永祐一先生」のコーナーを担当しているほどの理論派。こちらの動画は視聴するファンに向けて、騎手目線で道中の駆け引きやレースのポイントを解説してくれる内容でも好評だ。騎手引退後に調教師になったとしても、成功間違いなしといわれている人物だけに、「感性」で乗るタイプとは一線を画しているといえる。
そんな福永騎手だが、ジェラルディーナとは1年以上コンビを任されていた。しかし、チャレンジC(G3・4着)、京都記念(G2・4着)、鳴尾記念(G3・2着)、小倉記念(G3・3着)と重賞レースで惜敗続きだったのだ。
その上で自身から他の騎手へと乗り替わった途端に初重賞勝ちどころか、重賞連勝でG1まで勝たれてしまったのだから、ネットの掲示板やSNSで一部のファンから “鞍上強化”という厳しい声に晒されたのも、やむを得なかったか。
とはいえ、エリザベス女王杯の共同会見で斉藤調教師が「福永さんが乗りやすい馬にしてくれた」と語っていたように、道中の折り合いやレースぶりに進境が見られたのも、競馬を教えてきた福永騎手の貢献があってこそ。元主戦として屈辱を味わうこととなったが、これまで教えてきたことの集大成が今回の戴冠へと繋がったはずだ。
そもそも騎手の乗り替わりは日常茶飯事ともいっていい。史上最多のG1勝ちを誇る武豊騎手にも似たような状況となった前例もある。
『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)の人気キャラクターとしても有名なウオッカとコンビを組んでいた2009年のことだ。
毎日王冠(G2)と天皇賞・秋(G1)を連敗したこともあり、陣営は次走のジャパンC(G1)でC.ルメール騎手へのスイッチを発表。レジェンドからのバトンタッチにルメール騎手のプレッシャーは、相当なものだったと推測される。
だが、いざレースが始まると懸念されていた折り合いと距離の不安を克服して見事に優勝した。ウオッカを管理する角居勝彦調教師(当時)は、この非情にも見えた鞍上交代劇について、「引っ掛かるという先入観を持たない騎手を選んだ」と後に述懐している。
かといって、降板した武豊騎手がそのままコンビを続行したとしても、はたして勝てなかったのかどうかは分からない。今回のジェラルディーナの激変も、たまたま乗り替わったタイミングで陣営の努力が形として表れただけなのかもしれない。