JRA武豊「距離が変わったんですよ?」ナリタブライアン「異例のスプリント挑戦」にどよめいた96年高松宮杯(G1)

 今週、中京では高松宮記念(G1)が行われる。

 先週はかつてナリタブライアンVSマヤノトップガンの名勝負に沸いた阪神大賞典(G2)を振り返ったが、今回はナリタブライアンが出走した高松宮記念を採り上げたい。

 ナリタブライアンは、阪神大賞典でマヤノトップガンとの年度代表馬対決となる死闘を制した。この勝利を受けて、完全復活を印象づけたナリタブライアンは武豊騎手から三冠を達成したパートナーの南井克巳騎手の手綱に戻り、次走の天皇賞・春(G1)では単勝オッズ170円の断然人気に支持された。

 マヤノトップガンは2番人気に推され、2頭の馬連の配当は200円という一本被り。直線に入り、先頭に立ったマヤノトップガンにナリタブライアンが並びかけたときには、多くのファンが阪神大賞典に続く2頭のデッドヒートの再現を期待しただろう。

 だが、マッチレースを夢見たファンの期待はすぐに裏切られる。道中の折り合いに苦しんでいたマヤノトップガンは伸びを欠き、これを交わしたナリタブライアンが完勝するかに思えたのも束の間、無情にも外から差し切ったのは横山典弘騎手の3番人気サクラローレルだった。

 そして、ナリタブライアンの次走は宝塚記念(G1)と誰もが考えていたなかで、「高松宮杯(G1・現高松宮記念)出走」という衝撃の発表が陣営からされたのである。

 高松宮杯はそれまで芝2000mのG2として開催されていたが、1996年に中央競馬の短距離競走体系が整備された関係で、距離を芝1200mに短縮してG1に昇格、施行時期も5月に変更されたばかりだった。

 3200mの天皇賞・春を使った後、一気に2000mの距離短縮となる1200mの新設G1への出走に、コンビを組んでいた武豊騎手でさえ、「今年から距離が変わったんですよ?」と聞き直したほどの異例の参戦となった。

 ナリタブライアンは1200m戦でデビューしているように初経験の距離ではないにしろ、当時戦っていたい相手は弱く、ブライアン自身も、頭角を現したのは距離が延びて以降だった。3歳夏の函館3歳S(G3・当時)を6着に敗れて以来となる、1200m戦への出走は物議を醸すこととなった。

 これにはファンも驚きを隠せず、1番人気をヒシアケボノに譲り、ナリタブライアンは2番人気にとどまった。

 レースは、田原騎手のフラワーパークが、逃げ馬を交わして直線入り口で早くも先頭に立つ。注目のナリタブライアンは、前半から33秒台で流れるスプリント戦のハイペースについていけず、追走に手間取った。

 パートナーの底力を信じて武豊騎手も懸命に鞭を入れて追い上げた。だが、エンジンが掛かった頃、すでに勝ち馬のフラワーパークはゴール版を駆け抜けていた。クラシック三冠馬による前代未聞の挑戦はあえなく4着に終わった。

 その後、ナリタブライアンは宝塚記念へ向けて調整を続けていたが、屈腱炎を発症。ターフを賑わせたシャドーロールの怪物はあえなくその競走生活を終えることになった。

 あれから24年の月日が流れた……今年の桶狭間はどんなドラマが待っているだろうか。

(2020年3月26日掲載)

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