阪急杯(G3)はミッキーラブソングで”男泣き”! 名伯楽・橋口弘調教師の集大成に「奇跡」は起こるか!?
いよいよ今週から春競馬が開幕したが、そんな華やかな雰囲気とは……いや、華やかな雰囲気だからこそ競馬界を”卒業”していく偉大なホースマンたちがいる。武田博調教師、橋口弘次郎調教師、それに松田博資調教師(いずれも栗東)ら3人の名伯楽だ。
今週末に引退となる彼らは明日28日が文字通り「現役最後の一日」となるのだが、今回はその中でも重賞96勝を誇る関西の重鎮・橋口弘調教師に注目したい。
橋口弘調教師がJRAの調教師免許を取得したのは1980年。血縁者や関係者が多数を占め「閉鎖的」ともいわれる中央競馬界の中で、橋口弘調教師の経歴は異例の存在だった。宮崎県の牧場で生まれ、佐賀競馬の騎手から厩務員になったため、中央競馬との関係がほぼなかったのだ。
2年後、ようやく調教師としてデビューしたが普通の新人調教師とは異なり、先輩調教師からの援助や引き継ぎなどは見込めず、与えられた10馬房はすべてカラだったという。
そんな、まさに「0」からのスタートから着実に実績を重ね、積み上げた勝ち星は991勝。これは現役調教師では、美浦の藤沢和雄調教師に次ぐ第2位の記録となる。
ただ当時、絶対的な存在だったディープインパクトをハーツクライで下す大金星を挙げた2005年の有馬記念(G1)など数々の栄光がある一方で、橋口弘調教師は「勝ち切れない男」としても有名だった。
先述したハーツクライにしても日本ダービー、宝塚記念、ジャパンCと3度G1での2着を経験。有馬記念制覇は「4度目の正直」といったところだった。中でも橋口弘調教師が常々「悲願」と執念を燃やしていた日本ダービー制覇に至っては、1番人気で2着だったダンスインザダークを始め、4度も2着の涙を飲んでいる。
しかし、明日で引退を迎える師に大きな心残りはない。
何故なら、橋口弘調教師が「一番心に残っている勝利」と語る2014年の日本ダービーを、見事ワンアンドオンリーで制覇しているからだ。師も「もしも、この勝利がなければ『一つだけ悔いがあります』と話していたかもしれませんね」と表情も晴れやか。
そんな橋口弘調教師の現役最後の一日となる明日28日(日)には、2頭の出走馬がスタンバイ。共に「家族同然」といわれる付き合いを重ねてきた小牧太騎手が騎乗する。
注目はやはり、阪急杯(G3)に出走するミッキーラブソングだ。
「絶対に泣いてしまう」「ボロボロ泣く」と自身のコラムで号泣を予告している小牧太騎手だが、「最後だから、なんとかしたい」と恩師の最後の期待に応えたい決意は固い。
無論、高松宮記念(G1)の前哨戦ということもありダノンシャークやミッキーアイル、レッツゴードンキのG1馬3頭を始めとした強豪が集っている。ただ、橋口弘厩舎のスタッフも「このメンバーで仕事ができる最後の機会」とミッキーラブソングの仕上げに余念はない。
「きれいな併せ馬ができて、本当に上手くいった」と胸を張る担当の酒井助手に送り出されたミッキーラブソングの黒光りする馬体は、まさに完ぺきな仕事が施された芸術のようだった。
そんな橋口弘調教師、厩舎スタッフ、小牧太騎手の”集大成”となる阪急杯は、明日28日(日)の15時35分発走予定。筆者も一人のファンとして、ミッキーラブソングの単勝を握りしめ”男泣き”に付き合わせていただきたいと思う。