「崖っぷち」の人馬が単勝万馬券の大波乱演出、「最後の未勝利戦」を負けても諦めなかった陣営の勇気ある決断

 19日の中京競馬は台風14号が接近した影響で、暴風雨に見舞われる過酷な状況の中でレースが行われた。特に10Rから11Rが行われる時間帯は雨脚が強まり、視界不良によりメインレースの発走時刻が遅れる程であった。

 それでも無事に11Rが実施された後は雨脚も落ち着き、まるで過酷な1日を戦い抜いた人馬を労うかのように空には綺麗な虹が架かっていた。この急激な天候の回復には、ファンや関係者も胸をなでおろしたに違いない。だがこの後の最終12Rでは、大型台風に比肩する程の「大嵐」が巻き起こることになる。

 この12Rの“台風の目”となったのがシャウビンダー(牝3歳、栗東・須貝尚介厩舎)だ。当馬はデビュー以来7度出走しているが、ここまで勝利は一度も挙げられず。現3歳世代の未勝利戦は既に終了しているため、こうした境遇の馬は地方競馬へと活躍の舞台を移すのが一般的だ。

「崖っぷち」の人馬が単勝万馬券の大波乱演出

 だがシャウビンダーは中央での初勝利を諦めず、今回は未勝利馬の立場ながらに果敢にも1勝クラスに格上挑戦を敢行。レースでは最後の直線で後方から脚を伸ばし、ゴール前に差し馬が殺到する大激戦の末にハナ差で抜け出す大金星をあげたのである。

 格下の存在としてレースに臨んでいたシャウビンダーの下馬評は当然ながら低く、単勝オッズは15頭立ての最低人気で102.5倍と、ほとんど期待されていない存在であった。こうした戦前の評価を覆す見事な激走により、最終レースは当日の荒天さながらの“大荒れ”の決着となった。

酒井学騎手

 この大波乱の立役者として、シャウビンダーを勝利に導いたのが酒井学騎手である。酒井騎手と言えばファンの間でも度々「穴男」と称されるなど、人気薄の馬での好走が印象深い。

 近年の重賞レースでも20年の中京記念(G3)で18番人気・メイケイダイハードを、19年の京都新聞杯(G2)で11番人気・レッドジェニアルを、それぞれ勝利に導いた。重賞で2桁人気の大穴馬に騎乗して馬券内に食い込んだ回数は15度にのぼり、大舞台でも「穴男」ぶりを如何なく発揮している。

 こうした成績から多くの穴党ファンに愛されてきた酒井騎手であるが、キャリア25年目を迎えた今年は成績が低迷。10年以降はコンスタントに年間20勝前後を挙げていたが、今年は9月2週目を終えた時点で未だに5勝に留まっていた。

 最後に勝利を挙げたのは6月5日にまで遡り、その後は46連敗の大不振。6月19日には騎乗馬の装鞍中に足を踏まれて骨折をするアクシデントに見舞われ、2か月の療養を強いられるなど苦境に立たされていた。

 だがこの逆境を撥ね退けるように、先週末の酒井騎手は輝きを放っていた。土曜の中京6Rでは怪我からの復帰後は初となる、約3か月ぶりの勝利を挙げることに成功。そして先述の月曜の12Rでは自身の真骨頂ともいえる穴馬、それもシンガリ人気の馬を勝利に導き「穴男」の復活を印象付けた。

 高配当に目が無い穴党のファンにとっては、苦難が続いていた酒井騎手に復調の兆しが見えたことは嬉しい限りである。カムバックを果たした嵐を呼ぶ「穴男」酒井騎手の今秋の活躍にも大いに期待したい。

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