蛯名師明かした大物電撃転厩の真相と「テイエム」の思惑
先月14日、重賞5勝の実績をもつテイエムサウスダンが栗東・飯田雄三厩舎から美浦・蛯名正義厩舎に転厩することをJRAが発表。テイエムサウスダンは2月のフェブラリーS(G1)でも2着に好走しているように、現在は充実期の真っただ中。バリバリのオープン馬の異例の転厩ということで、競馬ファンの間でも話題となっていた。
様々な憶測を呼んだ今回の転厩劇であったが、その真相について当事者である蛯名正師が『東スポ競馬』内の自身のコラムにて明かしている。
「オーナーサイドからは関東圏のGⅠや交流重賞を狙っていて、そのためには地の利がある美浦トレセンで…という要望があったんですよね」
“育て親”となる飯田雄厩舎への手前、蛯名正師には今回のテイエムサウスダンの受け入れに葛藤があったようだが、最後にはオーナー側の強い要望に応える形で転厩が決まったようだ。
テイエムサウスダンはフェブラリーS挑戦の際にも距離不安が囁かれていたように、本来はダートの1200m~1400mが主戦場である。しかし、この距離のグレードレースは根岸S(東京)、東京スプリント(大井)、さきたま杯(浦和)、クラスターC(盛岡)、東京盃(大井)、カペラS(中山)など中央・地方共にその多くが東日本に集中している。
加えて、JBCが今年は盛岡で、来年は大井で行われることが既に決定しているため、当面のダートG1は中京のチャンピオンズCを除けば全て東日本での開催となる。
テイエムサウスダンのようなダートの一流スプリンターにとって、今後も重賞戦線を転戦していくことを考えれば、関東所属であることが輸送の面で有利になることは明白。こうした背景を考えれば、オーナーサイドが“地の利”を得るために転厩を望んだことには納得できる。
だがその一方で、今回の転厩に際してはオーナー側にもう1つ別な意図があったようにも思える。
新たな”お得意様”が必要なテイエム軍団
テイエム軍団の竹園正繼オーナーは所有する現役馬55頭の内、五十嵐忠男師に12頭、飯田雄師に11頭を預託している。この2厩舎にそれぞれ約2割の所有馬を託しているのだが、実は五十嵐師は来年2023年に、飯田雄師も24年には定年引退を迎えることとなっている。
2人合わせてテイエム軍団の約4割を管理している厩舎がそれぞれ解散間近ということで、オーナーサイドとしても今後は新たに「お得意様」となる厩舎を開拓していきたいと考えているはずだ。こうした背景もあって今回の転厩に際して、期待の新人調教師である蛯名正師との長期的な関係構築のために白羽の矢を立てたのかもしれない。
開業して間もない蛯名正師にとっても、今回のテイエムサウスダンの転厩は大きなチャンスといえる。ここで結果を残して竹園オーナーの信頼を勝ち取れば、テイエム軍団の新たな「お得意様」となることで厩舎も軌道にのっていくはずだ。
蛯名正師によるとテイエムサウスダンは今後、東京盃(G2)からJBCスプリント(G1)を目指すとのこと。この2レースのいずれかで、テイエムサウスダンが蛯名正厩舎に“初重賞”をもたらす可能性は十分にあるだろう。蛯名正師と共に新たな船出を迎えるテイエムサウスダンにはもちろん、蛯名正師とテイエム軍団の今後の関係も併せて注目していきたい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。