JRAスピード競馬全盛時代の異端児か!? 「全集中」でアノ馬が偉業を狙い撃ち…… 年2戦も「予定通り」の裏事情とは
5日、中山競馬場では日本一のマラソンレース・ステイヤーズS(G2)が行われる。中山の芝内回りコースを2周する3600mの条件は、JRAの平地競走で最長の距離のレースでもある。
97年からそれまでのG3・ハンデキャップからG2・別定へと条件が変更。これにより、有馬記念を目指す馬が出走してくる例もあった。だが、近年はスピード化が進んだことで長距離戦の軽視が顕著となったため、一線級の出走はあまり見られなくなっている。
トップクラスの馬がG1競走である春の天皇賞でさえ、避けることが珍しくない昨今の風潮もまた、時代の変化というべきかもしれない。
その一方、これに逆行するかのように、ステイヤーズSに”全集中”しているのがアルバート(牡9、栗東・橋口慎介厩舎)だ。
父アドマイヤドンは芝・ダートのGIで地方と中央合わせて通算7勝を挙げた名馬。同馬の母ベガは93年の桜花賞(G1)、優駿牝馬(G1)を制した二冠馬である。母フォルクローレは1200mから1600mを主として走った短距離馬だが、そんな両親から生まれたアルバートは無類のスタミナを誇るステイヤーとして名を馳せている。
ステイヤーズSに初出走した15年に優勝すると16年、17年と3連覇を達成した。4連覇を目指した18年は右前肢ハ行のため、無念の取消。昨年は惜しくも2着に敗れたが、4勝目を狙って今年も出走を予定している。
18年のステイヤーズS取消以降に美浦の堀宣行厩舎から栗東の橋口慎介厩舎に転厩。昨年は京都大賞典(G2)16着から見事な変わり身を見せて2着に好走した。京都大賞典17着からの臨戦過程は昨年と同じだ。
2年連続、年間通して2戦のみのローテーションは異質といえるだろう。この理由について『netkeiba.com』のコラム『NONFICTION FILE』で興味深い内容が記載されていたため、一部引用で採り上げてみたい。
大恵陽子氏の取材に対し、橋口調教師は「アルバートは昨年のステイヤーズSが終わった時点で『京都大賞典を叩いてステイヤーズS』という年2戦プランが決まっていました」と話している。
勝って引退が理想だったものの、勝利まであと一歩のところで2着に惜敗してしまった。これで林正道オーナーも「あれを勝てれば、それでいい」という想いが強くなったことが、ステイヤーズS優勝に「全集中」している背景となっているようだ。
9歳と高齢でもあるため、年2戦も陣営にとっては「予定通り」ということである。
「父アドマイヤドンも母フォルクローレも現役時代を知っていますが、この2頭からアルバートのようなステイヤーが誕生したのは驚きました。母父のダンスインザダークがスタミナを上手く伝えているんでしょうか。
残念ながら同一重賞4連覇はなりませんでしたが、JRA同一平地重賞4勝ともなれば十分な偉業といえます。何とか有終の美を飾って欲しいものです」(競馬記者)
陣営のいうように予定通りということであれば、今年も変わり身は十分あるだろう。
時代の異端児が有終走で引退の花道を飾ることに期待したい。