JRA競馬中継「視界不良」で16頭立てが“6頭立て”に……「どうやらスタートを切っているようです」という実況で始まった伝説のレース
豪雨にさらされた今回の中山8Rは、まだ何が行われているのか、ぼんやりとわかる状況だった。だが、当時のバイオレットSを中継した画面は、まさに真っ白……一瞬、放送事故かと錯覚してしまうほど何も見えない状況だった。
「ゲート入り……どうでしょうか、確認できませんが各馬のゲート入りが進んでいます」
これを果たして「実況」と呼べるのかはさておき、何も見えないのだから場面を“推測”する他なかった広瀬アナ。「どうやらスタートを切っているようです」という実況で始まるレースは、後にも先にもこのレースくらいだろう。
このバイオレットSも13頭立てのダート1400mという本来、実況アナにとっては忙しいはずの短距離だったが何も見えない以上、視聴者へ伝えられることがない。実況が「さて……」と切り出したまま、数秒間黙っているのは異様な光景だ。
「20秒近くが経過しているので、おそらく向正面の中間辺りだと思われます」
仕方がないとはいえ、その後も「おそらく」という、競馬実況ではそうそう聞かれないワードが何度も続いたこのレース。悲惨な時間を過ごした広瀬アナにとって救いがあったとすれば、最後の直線だけはやや視界が開けていたことだろう。しっかりとナムラホームズが勝ち切ったこと、2着にトキオクラフティー、3着にキングオブケンが入ったことも実況できていた。
「ほとんど視界が取れません。大変失礼いたしました」
レース後、視聴者へ異例のお詫びを告げた広瀬アナ。屋外競技である競馬は自然との戦いだが、屋根の下でその模様を伝える実況アナもまた、時として自然と戦わなければならないこともあるようだ。