勝負とは、生きるとは――新刊『ミルコ・デムーロ×クリストフ・ルメール 勝利の条件』で描かれる「異国のサムライ」の本質
一方、ルメール騎手はその騎乗と同様、常に「冷静さ」を感じさせるトークを展開。日本競馬とフランス競馬の違い、日本人騎手と競走馬のレベルの向上、さらには生きていく上での心の持ちようまでを語る。フランスを代表する調教師であるアンドレ・ファーヴル氏の厩舎に身を置いた10代、オリビエ・ペリエやティエリ・ジャルネという欧州屈指の名手とともに過ごした日々に関する内容は、競馬ファンとしては見逃せない。常に貪欲に技術を吸収し、研究に余念がないルメール騎手の性格が垣間見れる。
本書を読むと、2人が互いを尊敬し合い、異国の地で活躍する「同士」として見ているのがよくわかる。それでいて、競馬への考え方や性格はまるで「正反対」なのだ。2人の文章を交互に読んでそれを楽しむことこそがこの本の醍醐味といえる。そして、生き方そのものが彼らの「勝負師」としての強さを醸成しているのが理解できる。
最後に、特に印象に残ったデムーロ騎手、ルメール騎手の文をそれぞれ紹介したい。
デムーロ騎手
「リーディングというのは、目標のひとつであっても目的ではない。だから『獲れたらサンキュー』くらいの気持ちでやっていくことが良いと考えている。哲学的なことを言うようだけど、そのくらいの気持ちでいることが、かえって獲得できることになるんじゃないか……って、そう考えているんだよ」(本書162頁)
ルメール騎手
「いまの時代、収入ばかりを考えて、忙しいわりに見返りが少ないとすぐに投げ出してしまう人が多いみたいです。でも、僕はジョッキーに成り立ての頃、毎朝4時半から馬房の掃除をして、それ自体はまったくお金にならなかったけど、早く一流のジョッキーになりたいと思ったから情熱を持って一所懸命にやっていました。そういったことの積み重ねで、現在、こうやって日本でたくさんの良い馬に乗せていただけるようになったのだと思います」(本書109頁)
単なる競馬の勝利論ではない。生き方やメンタル、強靭な意志を持つ異国の”サムライ”2人の思想を惜しみなく引き出し、まとめた一冊といえる。必読。
(文=編集部)