JRA武豊の「慢心」が招いたウオッカ絶体絶命の危機!? 安田記念(G1)女傑が切り裂いた壁、壁、壁……、「下手でした」名手も反省した2009年の大偉業

 脚は十分に溜まったウオッカをどこに誘導するか、武豊騎手が判断に思いを巡らせている一瞬のスキを突いたのが、前年のダービー馬ディープスカイと四位洋文騎手のコンビ。ウオッカの機先を制してインをスルスルと抜け出すと、一足先にスパートを開始した。唯一の出口を塞がれたウオッカにとっては絶体絶命の危機。前を行くディープスカイが壁になって追い出しを待たされている間にライバルとの差は開いていく。

 対するウオッカはまだ進路を見出すことが出来ず、ついには横並びの壁を掻い潜って、何とか馬場の半ばあたりで、ようやく進路を確保。針の穴を通すような抜け出しに成功したものの、ディープスカイは遥か前方。誰の目にも逆転はもはや不可能と映ったに違いない。

 だが、ここからが女傑ウオッカの真骨頂。完全に勝ちパターンに持ち込んだはずのディープスカイとの差を一完歩ごとに詰めていく。懸命に追うライバルを尻目に馬なりにすら見える脚色で交わし去ったのだった。2頭の差はハナでもアタマでもクビではない。一つのミスが命取りになるマイル戦で、これだけの不利がありながら、3/4馬身という「決定的」な差が付けられていたのだから恐ろしい。

 これには武豊騎手もレース後に「ホッとした。ドキドキさせてすみません。直線は下手でしたね。なかなかスペースもなくて、妙に安全策をとろうとしたのが裏目。馬には厳しいレースをさせてしまった」と、出てきたのは反省の弁。

「ストライドを伸ばしたのは最後1Fを切ってからだった。それでも勝つのだから強い。今日は馬を褒めて欲しい。いい騎乗ではなかったが馬に助けてもらった」と、実質1Fだけで手にした勝利を振り返った。

 無事に回って来るだけで勝てるという“慢心”に近い「安全策」を百戦錬磨の名手に選択させたのは、前走があまりにも「楽な勝ちっぷり」だったからかもしれない。

(文=黒井零)

<著者プロフィール>
 1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。

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