世界のクールモアの「ちょっと待ったコール」に大慌て!? 欧州2歳馬王者ヴァンゴッホ導入直前にあった“フライング発表”で冷や汗……
22日、浦河町のイーストスタッドが昨年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ヴァンゴッホを来年から種牡馬として導入することを発表した。
カルティエ賞は、日本でもお馴染みの宝石ブランド「カルティエ」がスポンサーになっている欧州競馬の年度表彰だ。欧州競馬において、中央競馬のJRA賞と同様の役割を果たしている。
ヴァンゴッホは2020年の2歳欧州チャンピオンホース。2歳時に、クリテリウムアンテルナシオナル(G1)を、最後方から直線一気で圧勝した名馬である。3歳になった今年も愛2000ギニー(G1)3着の実績があった。
父はアメリカンファラオで、日本でもカフェファラオ(牡4歳、美浦・堀宣行厩舎)やダノンファラオ(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)が産駒として活躍。
母イマジンは英オークス、愛1000ギニーとG1を2勝している。近親にはスプリンターズS(G1)優勝のタワーオブロンドン、皐月賞(G1)優勝のディーマジェスティなど、日本で活躍した馬がいる血統だ。
同スタッド代表で、谷川牧場の代表でもある谷川貴英氏は「日本でも人気の高いアメリカンファラオ産駒で、母系も優秀。自身も2歳チャンピオンと非の打ち所がありません。馬格にも恵まれており、若さも魅力だと思います」と大きな期待を寄せている。
なお、ヴァンゴッホのシンジゲートは60口だが、既に満口。多くの生産者が同馬の種牡馬としてのポテンシャルに期待していることの表れだろう。
しかし、同馬の種牡馬導入に際してちょっとしたアクシデントがあった。
谷川牧場が“フライング”してしまったのだ。
22日に正式発表された同馬の種牡馬導入だが、実は20日も前の今月2日の時点で谷川牧場の公式Twitterアカウントから一時発表されていた。
しかしその後、リリースの許可が降りていなかったことでヴァンゴッホのオーナーであるクールモアからクレームが……。件のツイートを早急に削除し、リツイートなどで拡散した他のアカウントへ削除を要望するなど、谷川牧場がてんやわんやになったことは述べるまでもないだろう。
クールモアスタッドといえば、アイルランドを拠点に世界を股にかけて活動するサラブレッドの生産者団体だ。種牡馬ビジネスを重視する傾向が見られ、成績優秀な競走馬でも若い時期に引退させ、種牡馬入りさせることで知られている。規模の大きさゆえ、日本の競走馬牧場に例えると、ノーザンファームに例えられることも多い。
ヴァンゴッホもクールモアの経営方針に従い3歳と若い時期に引退することとなったが、
そこでクールモアと協議し、種牡馬繋養の権利を得たのが日本のイーストスタッドだった。イーストスタッドにとっては、ダンカーク以来久々の大物外国産種牡馬導入ということで、少々興奮してしまったのかもしれない。
しかし、喜びも束の間……危うく世界的な規模を持つビジネスパートナーの逆鱗に触れてしまうところだった。ヴァンゴッホの導入を心待ちにしていた関係者にとっては、まさに勇み足のせいで危機一髪といったところだろうか。
異例の“フライング発表未遂”から約20日。無事に種牡馬導入のリリースを行うことができた。一難去ったイーストスタッドとしては、ヴァンゴッホに活躍してもらい世界のクールモアとWINWINの関係を築きたいに違いない。
(文=寺沢アリマ)
<著者プロフィール>
大手スポーツ新聞社勤務を経て、編集部所属のライターへ。サラ系・ばん馬のどちらも嗜む二刀流で「競馬界の大谷翔平」を目指すも収支はマイナス。好きな競走馬はホクショウマサル。目指すは馬券的中31連勝だが、自己ベストは6連勝と道は険しい…。