JRAタイキシャトル「海外G1初制覇」を出し抜いたシーキングザパール陣営の奇策! 国際派トレーナーの意地とプライドが激突、選ばれたのはアイビスSDより長い直線舞台
現地時間8月8日、フランスのドーヴィル競馬場で行われたモーリス・ド・ゲスト賞(仏G1)は、マリアナフットがトロボーに1馬身3/4の差をつけて優勝した。
三代母に日本で生まれたサンデーサイレンス産駒セレスティアルラグーンがいるマリアナフットは6歳にして本格化。昨年12月から破竹の勢いで連勝を続けた。5月に行われたパレロワイヤル賞(G3)を制すると、勢いそのままに7月のポルトマイヨ賞(G3)も勝利。ついにはG1も制して8連勝となった。
現在では日本のファンにもお馴染みとなったモーリス・ド・ゲスト賞は、直線のみで行われる芝1300mが舞台。日本ではアイビスサマーダッシュ(G3)が直線のみの重賞として有名だが、こちらはさらに300mも長い。
そして、このレースの存在を日本のファンに知らしめたのが、武豊騎手とのコンビで1998年に制したシーキングザパールといっても過言ではないだろう。
類稀なスピードの持ち主だったシーキングザパールだが、距離の不安や重い馬場を苦手とするなど、強さの中に脆さも同居していた。常に上位人気に支持されながらも、唯一手にしたG1タイトルはNHKマイルCのみだったことも、森秀行調教師が海外を視野に入れた背景にあっただろう。
遠征前の安田記念(G1)では、マイルの絶対王者タイキシャトルの前に10着と大敗したばかり。こちらも国際派トレーナーとして知られる関東の名門・藤沢和雄調教師が管理する馬であり、次走にはジャック・ル・マロワ賞(仏G1)への出走を計画していた。
当初、ジャック・ル・マロワ賞を予定していたシーキングザパール陣営が、「マイルではタイキシャトルに分が悪い」として新たな選択肢としたのが、このモーリス・ド・ゲスト賞だ。
知名度で劣るとはいえ、モーリス・ド・ゲスト賞が行われるのは、ジャック・ル・マロワ賞より1週早い。難敵相手に走るより、「日本で最初に海外のG1を勝つ調教師」を狙ったといわれる森師の「奇策」が功を奏した。
だが、そんな期待に見事応えることが出来たのも、シーキングザパールが優れた能力を持っていたからこそである。
この勝利は、地元紙でも大きく取り上げられ、手綱を取った武豊騎手にとってもスキーパラダイスで制したムーラン・ド・ロンシャン賞に続く欧州G1制覇。日本競馬界の悲願達成を「スキーパラダイスの時とは違う嬉しさがありますね。日本の馬で日本のチームで勝てたんですから」と喜んだ。
今でこそ日本馬の海外G1制覇は、そう珍しいものではなくなりつつあるが、当時はまだまだ試行錯誤の時代。そんな中、積極的に海外遠征に挑戦していた森師と武豊騎手のコンビが初めて手に入れた勲章でもあった。
結果的に回避したジャック・ル・マロワ賞は、森師が「来週、出走するタイキシャトルはもっと強いですよ」と宣伝したタイキシャトルが、圧倒的1番人気に応えて快勝。シーキングザパール、タイキシャトルといった日本調教馬による2週連続のフランスG1勝利は、日本の競馬が世界レベルに近づきつつあることを欧州の競馬関係者に印象付けることとなった。
(文=黒井零)
<著者プロフィール>
1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。