JRA武豊「強奪説」も出た二冠馬の降板劇! 素質馬ロンを管理する調教師から託されたバトン、オーナーからの告白に快諾した仰天エピソード
先週21日の新潟9R瀬波温泉特別で、ワンダーエカルテが2勝クラスを突破。同馬を管理する石橋守調教師はこの勝利で通算98勝目となり、早ければ今週の競馬でメモリアル勝利となる100勝も見えてきた。
石橋厩舎は今年11勝目。早くも昨年と並ぶ勝ち星をマークするなど、2018年に記録したキャリアハイの21勝を更新するシーズンになる可能性もある。
さらに今月1日の函館5R新馬戦では、2歳馬ロンが快勝。デビュー戦で騎乗した武豊騎手が「すごくいいフットワークで、走りそうな雰囲気を感じました。楽しみですね」と絶賛している素質馬だ。夏競馬が終わる秋以降も、厩舎を率いる石橋師の手腕に注目が集まりそうだ。
その武豊騎手と石橋師は仲の良いことで有名であり、今も伝わる2人のジョッキー時代のエピソードがそれを証明している。なかでも、名馬メイショウサムソンの“乗り替わり”に触れないわけにはいかないだろう。
06年、皐月賞とダービーの春クラシックを制したメイショウサムソン。当時、現役騎手だった石橋師が、二冠馬の主戦を任されていた。苦節22年目で掴んだ苦労人の初G1制覇に、競馬ファンは惜しみない拍手を送った。
秋の菊花賞(G1)で4着に敗れ、三冠の期待に応えることはできなかったものの、翌年の大阪杯(G2・当時)と春の天皇賞(G1)では、しっかりと勝利を飾った石橋騎手とメイショウサムソン。
しかし、息の合った名コンビに突然の別れが訪れる。
次走の宝塚記念(G1)を2着に惜敗すると、陣営から武豊騎手への乗り替わりが発表されたのである。ここまで石橋騎手の騎乗にこれといった大きなミスもなかっただけに、この乗り替わりについて、賛否が分かれる結果となった。一部では武豊騎手が強引に“奪った”のではないかという噂まで囁かれた。
だが、実際のところは、馬主の松本好雄氏は2人に筋を通すべく、いわゆる“仁義”を通したやり取りが行われていた。その席には2人のほか、福永祐一騎手や幸英明騎手、当時騎手だった四位洋文調教師らが松本氏御用達の「すっぽん屋」に招集され、関係者全員の前で乗り替わりの理由が説明されたという。
松本氏は同年秋に、メイショウサムソンの最大目標を凱旋門賞(G1)に狙いを定めており、「(石橋)守ちゃん、悪いんだけど凱旋門賞は豊が経験しているから、豊でいきたいんだ」と関係者全員の前で告白。当時の石橋騎手は「自分からも頼みたいくらいです」と納得して、この乗り替わりが実現したのだった。
結果的には当時流行った馬インフルエンザの影響で、その年の海外遠征は実現しなかったものの、先輩から託されたバトンを受け取った武豊騎手。初コンビとなった天皇賞・秋(G1)で見事、優勝を果たしている。
武豊騎手とは時にはライバルであり、“戦友”でもあった騎手時代の石橋師。素質馬ロンと武豊騎手がクラシックロードを賑わせ、石橋厩舎に初重賞を届けることになれば、2人の“物語”に新しいエピソードが加わることは間違いない。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。