JRA武豊「離脱濃厚」のメイケイエールはアストンマーチャンになれるのか。「こういう時は走るってユタカが」大逆転のスプリンターズS(G1)制覇へ問われる「厩舎力」と「代役騎手」
「『こういう時は走る』ってユタカが言ってました」
2007年のスプリンターズS(G1)。“自分探しの旅”に出ていたお転婆娘が、ついに「ベスト」にたどり着いた瞬間だった。
小倉2歳S(G3)、ファンタジーS(G3)、そしてフィリーズレビュー(G2)と3歳春までに1400m以下の重賞を3勝したアストンマーチャン。そのスピードは誰もが認める一方、1600mになると阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)こそ2着だったが、桜花賞(G1)ではスタートから引っ掛かる気性面の脆さを露呈してしまい7着と大きく崩れた。
そんなアストンマーチャンが出直しの一戦となったのが、1200mの北九州記念(G3)だった。桜花賞では、稀代の名牝ウオッカとダイワスカーレットの間に入る2番人気に推されたほどの逸材。単勝1.8倍にファンが込めた思いは、当然スプリント界のニューヒロインの誕生だった。
しかし、結果は6着と期待を大きく裏切る結果に……。
そんな状況で挑むことになった本番のスプリンターズSだったが、主戦の武豊騎手が同年の高松宮記念(G1)を勝ったスズカフェニックスを選択するなど、アストンマーチャンは崖っぷちの状況だった。
ただ石坂正調教師ら陣営は、アストンマーチャンの可能性をまったく諦めてはいなかった。1日1本の坂路調教を2本に増やすなど、調教を強化して迎えた当日の馬体重+10kgは明らかに成長分だった。
そんな陣営の尽力に天も味方した。レース当日は激しい雨に見舞われて典型的な不良馬場。ピッチ走法のアストンマーチャンにとっては、まさに絶好の馬場コンディションになった。
そして、武豊騎手の代役として抜擢した中舘英二騎手と言えば「逃げ」で鳴らす名手。陣営が腹を括るには十分なお膳立てだった。
「駄目でもいいから内を回ってこい――」