JRA 武豊「お前、自分が誰だか分かっているのか?」かつて沈みゆく“伝説”に掛けたゲキを今一度。競輪選手を救った「魔法の言葉」とは?
現在52歳という年齢ながら毎週精力的に騎乗を続け、活躍している武豊騎手。
JRA通算4293勝という大記録を今も更新し続けるレジェンドは、競馬界のみならず様々なジャンルで活躍する人々から慕われている。そのため、武騎手の影響を受けているアスリートが多数存在する。
その中の代表格が、「先行日本一」と評される競輪選手・村上義弘だ。
村上選手は武騎手と同じ京都出身。また、武豊・幸四郎兄弟のように弟の博幸選手と 長く競輪の一級選手として活躍している。
元競輪記者だった競馬記者のツテで知り合ったという武騎手と村上選手。武騎手の競輪好きが高じて関係を深めていった2人は一緒に食事やお酒を交えながら、お互い語り合う仲へ発展した。
そんな村上選手にショッキングな出来事が起こる。舞台は2日から5日にかけて京都向日町競輪場で行われた平安賞(G3)。平安賞は村上選手にとって地元で行われる唯一の記念競走だけあって、G1並みの気合いが入っていたそうだ。
同じ近畿からは東京五輪出場の脇本雄太選手も出場していた。脇本選手という頼もしいラインを先導する選手を得たため、マークしてついていけば決勝進出は見えていた。
だが、脇本選手のスピードは我々ファンの度肝を抜くほどで、村上選手もついていくことができず……。
『netkeirin』で連載中の自身のコラムによると、ショックは相当のものだったそうだ。その度合は、翌日に行われた特選競走いわゆる負け戦の直前も引きずっていたとのこと。しかし、敢闘門を出るときに、ふとある男の言葉を思い出したという。
「お前は村上義弘やぞ!」
競馬界のレジェンド武豊の言葉だった。
競輪選手として苦しい時期や思い悩んでいたときに、武豊騎手から掛けられた言葉を思い出すと、ふと力がみなぎってくるそうだ。「俺は村上義弘や!現時点でベストのレースをしよう!」と、自らに言い聞かせてレースへ臨んだ村上選手は見事1着となった。
実は武騎手は同じような言葉をとある競走馬へもかけたことで有名だ。
それが、オグリキャップだ。武騎手とオグリキャップと言えば、ラストランの90年有馬記念が有名だが、その時のエピソードである。
レース直前のゲート裏で「以前乗った時のオグリキャップじゃないな」と、異変に気づいた武騎手は、同馬の首筋を叩き「お前、自分が誰だか分かっているのか?お前はオグリキャップやぞ」と、声をかけたという。すると、同馬は武騎手の呼びかけに応答するかのように、全盛期に見せていた武者震いをしてみせた。競馬の枠を超え、日本中が感動の復活劇を目撃するのは、そこから約2分30秒後だ。
様々な修羅場をくぐり抜け、現在もなお生きる伝説としてその名を轟かせている武騎手。その一方、京都府伏見で生まれた1人の少年は「武豊」という競馬の象徴として、何百万人という競馬ファンの期待に応え、顔役を演じ続けてきた。
そんなレジェンドが投げかける言葉だからこそ「村上義弘」「オグリキャップ」という歴史の“演者”も、自分を信じて応援してくれるファンの期待に応えるという使命を思い起こし、力が湧いてくる。
武騎手の言葉はもしかしたら「魔法の言葉」なのかもしれない。