JRA かつての新人王に「無念」の主戦降板宣告……「凄く思い入れの強い馬」も追い込まれる崖っぷちジョッキーたちに明日はあるのか
16日、東京競馬場で第69回府中牝馬S(G2)が行われる。特別登録の段階でフルゲート18頭を超える21頭が登録している。
21頭の中には、昨年の秋華賞(G1)2着馬マジックキャッスルや、今年の阪神牝馬S(G2)優勝デゼルなどの実力馬がスタンバイしている。マジックキャッスルは戸崎圭太騎手、デゼルは川田将雅騎手といったように、有力馬は基本的に乗り替わりがなさそうだ。
一方、今回無念の乗り替わりとなってしまったのが加藤祥太騎手だ。
加藤騎手は同レースに登録しているミスニューヨーク(牝4歳、栗東・杉山晴紀厩舎)の主戦として、これまで同馬の15戦中14戦で鞍上を任されていた。ただ、今回はどうやら乗り替わりとなるようだ。
加藤騎手はデビューした2015年に30勝を挙げ、関西新人騎手が対象の中央競馬関西放送記者クラブ賞を受賞。翌年にも、顕著な成長と成果が認められた若手騎手に贈られる中央競馬騎手年間ホープ賞を受賞している。2つの賞は言わば騎手の世界における「新人王」タイトルである。
そのため、多くの関係者から3年目以降も飛躍を続けるのではと期待されていたが、
3年目以降に勝ち星が激減。近年は年間一桁勝利が目立ち、今年は現在2勝と白星に恵まれていない。
また勝利数の減少に伴い、騎乗依頼も減少するのが騎手の宿命だ。先月は計3レースしか騎乗機会がなく、まさに「崖っぷち」の状況に陥っている。
そんな加藤騎手を支えてきたのが、ミスニューヨークだ。「今までにない、凄く思い入れの強い馬」とスポーツニッポンの取材で答えているように、一昨年12月のデビュー戦からコンビを組み続けている、いわば「相棒」的存在である。
何度も乗り替わりの危機はあった。実際に乗り替わったのは1度しかないが、騎乗停止処分を科されていた秋華賞では、代役として長岡禎仁騎手が騎乗。16番人気を5着へ導く好騎乗だった。
レース後、ミスニューヨークの主戦降板を覚悟した加藤騎手だったが、管理する杉山晴師から次走の騎乗依頼が舞い込んだ。当時のことについて「本当に感謝の気持ちでいっぱいでした」と、師へ感謝の言葉を述べている。
しかし、田辺騎手が前週に負傷して当週の騎乗をキャンセル。再び、鞍上が空白になったが、杉山晴師が「馬の能力をしっかりと引き出してくれた」と、前走のスピカS(3勝クラス)の勝利を評価していたことで、加藤騎手とのコンビ継続となった。
だが、首の皮一枚つながった福島牝馬Sでは3番人気の支持を得ながらも9着と惨敗……その後、3戦も1番人気で3着が最高と目立った活躍はない。
しかし、その一方で結果が出てなかった以上、ファンからは「やっと乗り替わり」「待望の鞍上強化」といった反応があることもまた事実だ。
例えば、先月のセントライト記念(G2)では、アサマノイタズラが主戦の嶋田純次騎手から田辺騎手へ乗り替わって見事な勝利。今年6勝と苦しむ嶋田騎手にとっては、厳しい現実を見せられる格好となった。
また、ミスニューヨークの前走・小倉日経オープン(OP)を勝ったプリンスリターンもまた、今年1勝と苦戦している原田和真騎手が主戦降板となり、松若風馬騎手に乗り替わっての結果だった。
各陣営が、実績の乏しい騎手を主戦に据えることには、その騎手を「育てる」という側面がある。しかし同時に、常に「結果」が求められるのが競馬であり、敗戦が続けば、どうしても実績のある騎手に頼らざるを得なくなってしまう。
アサマノイタズラの嶋田騎手も、プリンスリターンの原田騎手も、そしてミスニューヨークの加藤騎手も、厳しい弱肉強食の掟に飲まれてしまった。だが、それはどんな騎手でも例外はない。
果たして、デムーロ騎手との新コンビを組むミスニューヨークはどんな結果を出すのだろうか。複雑な心境で見守ることになる加藤騎手だが、コンビ再結成に備えてできることはまだまだあるはずだ。
(文=坂井豊吉)
<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……