「川田節」でスワンS(G2)優勝ダノンファンタジー、マイルCS回避か。増設からわずか7年……早くも形骸化するJRAの優先出走権制度

「繰り返しになりますが、ここを勝ち切るために頑張ってきてますので」

 1番人気のダノンファンタジー(牝5歳、栗東・中内田充正厩舎)が、貫録の重賞6勝目を挙げて幕を閉じた今年のスワンS(G2)。レースは、ライバルたちをねじ伏せるように差し切った古豪牝馬の強さが際立った順当な内容だったが、“一波乱”あったのがレース後の勝利騎手インタビューだ。

「ゲートが、また今日も(出遅れを)やりそうな雰囲気でした。奇数枠(9番)だったので、ゲートの中で長いこと待ちながら、逆にそれで落ち着いてくれるようにという思いでした」

 3戦ぶりのコンビ結成となった主戦の川田将雅騎手は、緊急事態宣言が解除されたということもあって、久々のマスクなしで登場。端正な表情から紡ぎだされる言葉は、いつものクールな川田騎手だった。

「(ゲート内で)落ち着きはしませんでしたが、タイミングよく出ることができたので、スタートに関しては上手くいったと思います。結構みんなが行きたがって、速い流れになりそうだったので、この馬のリズムを大事にしながら、いい雰囲気で追走できていたと思います」

 いつも通りインタビュアーの質問に丁寧に、そして的確に答えていく川田騎手。今年重賞14勝目ながら、8月の新潟2歳S(G3)以来の登場とあって、多くのファンが久々の“川田節”に耳を立てていたはずだ。

「(最後の直線まで)とてもいい内容で走ってくれましたので、手応えも素晴らしく残っていましたし『これならしっかりと勝ち切ってくれるな』という雰囲気で直線に向きました」

 ちょっとした違和感があったのは、インタビュアーが最後の質問として「1ハロン延びますが、G1に向けていかがでしょう」と、本番のマイルCS(G1)に向けての質問をした時だ。

 川田騎手は「何より、この馬はここを目標に来ていますし、阪神の1400mというのはこの馬に適した条件でありますので、ここを勝ち切れて何よりです」と回答。求めていた答えではなかったのか、インタビュアーが「1ハロン延びるということは最後、いかがでしょう」と念を押してみたが、返ってきたのは「繰り返しになりますが、ここを勝ち切るために頑張ってきてますので」という答えだった。

「おそらくインタビュアーの方は『何より、この馬は「ここ」を目標に来ていますし』の「ここ」をマイルCSのことだと受け取ったのでしょう。スワンSは1着馬にマイルCSの優先出走権が与えられるため、自然な質問だったと思いますが、それでは趣旨が合わないので、改めて聞き直したんだと思います。

ただ、この川田騎手の言葉を聞く限り、ダノンファンタジーはマイルCSに行かない公算が高そうですね」(競馬記者)

 近年は、あえてレース間隔を開ける馬も多く、前哨戦で好成績を残しながらも本番のG1に出走しないことは珍しくない。

 実際に、1着馬に優先出走権が与えられる前哨戦の毎日王冠(G2)と京都大賞典(G2)の勝ち馬は、ともに今週の天皇賞・秋(G1)にエントリーしていない。ダノンファンタジーが仮にマイルCSを回避したとしても、特に驚くべきことではないということだ。

「今年のマイルCSには、グレナディアガーズなど川田騎手のお手馬が複数出走を予定していますし、ダノン軍団としてもダノンザキッドやダノンキングリーといったG1馬に出走の可能性があります。

したがって、ダノンファンタジーがマイルCSに出走しないのは、もともとの既定路線かもしれませんね。もし回避なら、次走は今回と同じ阪神1400mの阪神C(G2)になる可能性が高そうです」(同)

「ここを勝ち切るために頑張ってきてますので、いい内容で走ることができました」

 最後にそう言い切って勝利騎手インタビューを終えた川田騎手。天皇賞・秋の3強がすべてそうであるように「G1を勝てる馬」は前哨戦を使わず、G1で苦戦しそうな馬は前哨戦で全力を出し切り、本番には向かわないのが最近の主流だ。JRAが主に2014年から増設した優先出走権制度は、早くも時代の流れに置いて行かれた。

(文=大村克之)

<著者プロフィール>
 稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。

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