JRA武豊「ついに……」朝日杯FS(G1)ドウデュース完勝で広がる「2つ」の夢。2年前に溢した「本音」と、クロノジェネシスも通った登竜門から見据える世界
「ついに……うれしいですね」
その言葉には、武豊騎手ならではの「重み」がある。初騎乗となった1994年にスキーキャプテンでいきなり2着。2歳王者の勲章は、すぐにでも掴み取れると誰もが思っていた。しかし、そこから苦節27年、挑むこと21回。シルバーメダルは5つを数えた。
難攻不落の砦となった朝日杯FS(G1)は、いつしか武豊騎手にとって、挑んでも挑んでもあと一歩で勝利に届かない因縁のレースに。JRAの平地G1完全制覇という大偉業が目前となる中、その“因縁”はますますクローズアップされた。
2019年の12月に綴られた「毎年この時期になると朝日杯未勝利の話題になるので、早くなんとかしたいというのが本音です」(武豊公式HPより)とは、紛れもない心の声だったに違いない。
19日に阪神競馬場で行われた今年の朝日杯FSも、武豊騎手にとって決して簡単なレースではなかった。コンビを組むドウデュース(牡2歳、栗東・友道康夫厩舎)は単勝7.8倍の3番人気と、他にも強い馬が複数いたからだ。
今回が22回目の挑戦となる武豊騎手だが、実は1番人気の騎乗はわずか2度しかない。あの「武豊」が、である。これも、このレースとレジェンドジョッキーの縁がなかった原因の1つだろう。
15頭立て、芝1600mで行われたレース。武豊騎手とドウデュースは無難なスタートを決めたものの、無理せず中団から。好位抜け出しだった過去の2連勝とは異なる競馬だったが「道中も良くて、いいポジションに収まりました」と武豊騎手は相棒の自在性を信頼していた。
「手応えよく直線に向けたので、あとは頑張ってくれと。相手も強い馬でしぶとかったけど、最後まで一生懸命走ってくれました」
迎えた最後の直線で、外に持ち出されたドウデュース。前を走るオタルエバーをパスするのにやや手間取ったものの、エンジンがかかってからの伸びは抜群。最後は先に抜け出していた1番人気セリフォスをねじ伏せるように差し切った。
「武豊騎手らしい華麗な騎乗でした。レース内容も然ることながら、なかなか勝てなかった朝日杯FS、そしてなかなかG1を勝てなかったキーファーズの馬で勝ったことで喜びもひとしおでしょうね。みんな武豊騎手の勝利を待っていたでしょうし、阪神競馬場のスタンドからの声援も凄かったですよ。
勝てば一際大きく祝福されるのがG1レースですが、今回は特に『おめでとう』の声が多かったと思います。武豊騎手、本当におめでとうございます!」(競馬記者)
「G1(勝利)自体が久しぶりなので、すごくうれしいです」
勝利騎手インタビューでそう語った武豊騎手は、一昨年の菊花賞以来となるJRA・G1制覇。完全制覇へ残すは年末のホープフルS(G1)のみとなった。
「アスクワイルドモアに騎乗予定のホープフルSを勝てば、夢のG1完全制覇となる武豊騎手ですが、もう1つの夢がフランスの凱旋門賞(G1)制覇。その実現に向け、キーファーズのドウデュースがG1を勝ったという意味は非常に大きいと思います」(同)
ドウデュースの馬主キーファーズといえば、これまでずっと代表の松島正昭氏が『武豊騎手と凱旋門賞制覇』を掲げていることが有名だ。今年、キーファーズが権利を半持ちしているブルームで通算9度目の世界頂上決戦に挑んだ武豊騎手だが、来秋にはドウデュースと10度目の挑戦ということになるかもしれない。
「友道調教師が戦前に『マイルでも問題ない』と話していた通り、元々ドウデュースは中長距離を意識して1800mを連勝してきた馬。
実際に、前走のアイビーS(L)を過去に勝ったソウルスターリングは翌年のオークス(G1)を制していますし、クロノジェネシスに至っては今年の凱旋門賞に出走していました。ハーツクライ産駒のドウデュースですから、今後の距離延長にも問題なく対応する可能性は大いにあると思いますね」(同)
「初めて乗った時から、非常に能力を感じていた馬。レースをするたびに強くなって、まだまだ強くなりそうな予感があります」
レース後、新2歳王者にそう期待を膨らませた武豊騎手。走るたびに強くなるドウデュースのスケールは、一体どこまで大きくなるのか。来年のクラシック、そして「世界」を見据えた挑戦が幕を開ける。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。