JRA京都記念(G2)これぞ「横山典弘マジック」! 並みいるG1馬をなで斬り、意表突く奇策でジェンティルドンナを封じた神騎乗

横山典弘騎手

 それは8年前の京都記念(G2)まで遡る。

 この日は、週末に全国各地を襲った大雪の影響もあり、東京開催が中止となる異例事態。京都競馬場は通常通り開催されたが、前日に降った雨の影響も残り、レース直前の芝状態は稍重発表だった。それも水分を多く含んだ、限りなく重に近い状態だ。

 戦前の予想では、前走で史上初のジャパンC(G1)連覇を達成した三冠牝馬ジェンティルドンナと、前年のマイルCS(G1)を制し同レース連覇がかかるトーセンラーの、二強による一騎打ちムードが漂っていた。

 しかし、レースは思わぬ結末を迎えることになる。

 12頭立ての京都芝2200mで行われたレース。ゲートが開くと、大外枠から果敢にハナを奪いに行ったのは、横山典弘騎手のデスペラードだ。

「外から11番デスペラードが行きました!外からデスペラードが出て行きます!」

 これには実況アナウンサーも驚いた様子で、声も上擦る。それもそのはず、同馬は後方からの差し馬という印象が強く、過去一度も逃げたことなどない。誰もが予想しなかった鞍上の「奇策」だった。

 先頭に立ったコンビは、1000m通過1分3秒7の超スローペースに落とし、前日の悪天候の影響が残った想像以上にタフな馬場だったことも絶好の援護射撃となる。福永祐一騎手の1番人気ジェンティルドンナは、道中2、3番手を追走し、武豊騎手の2番人気トーセンラーは中団の外目でレースを進める。

 終始マイペースの逃げを保っていたデスペラードに対し、4コーナーで外からF.ベリー騎手のトゥザグローリーが捲り気味に進出を開始。それに応じてデスペラードもペースアップするかと思いきや、横山典騎手は動じることなく前を譲り、最後の直線を迎えた。

 一度は先頭に立ったトゥザグローリーが、残り200mで一杯になり失速。タフな馬場に苦しむジェンティルドンナは、いつもの伸び脚が見られない。脚を溜めていたトーセンラーが外から猛然と追い込むも、余力が残っていたデスペラードがもう一度内から差し返し、見事にG1馬達の追撃を振り切った。

「自分の中ではいつかこんな競馬が出来ればと思っていました」

 レース後に、そう語った横山典騎手としては自画自賛の好騎乗だったに違いない。大胆な戦法をとっても、結果が伴わなければ批判を浴びるのが騎手の宿命。それに臆することなく脚質転換を試み、馬のスタミナを信じ、当日の馬場状態を読み切った、まさに鞍上の「マジック」ともいえる神騎乗だった。

 また、横山典騎手といえば、これまでも数々の名騎乗を披露してきた天才でもある。04年の天皇賞・春(G1)で4強相手に影をも踏ませぬ大逃げを決めたイングランディーレや、14年の日本ダービー(G1)では強烈な末脚が武器だったワンアンドオンリーをまさかの先行策で勝利に導いた。失敗を恐れない思い切った騎乗に、我々競馬ファンは幾度となく魅了されてきたことだろう。

 今回の京都記念には、8年前苦杯を嘗めたジェンティルドンナの娘であるジェラルディーナが、福永騎手と共に出走を予定している。さらに横山典騎手が騎乗予定のディアマンミノル(牡5、栗東・本田優厩舎)は、後方からの強烈な末脚を武器としている。デスペラードとどことなく似ており、当時の記憶が蘇るかもしれない。

 先週のきさらぎ賞(G3)を制し、早くも今年重賞3勝目を挙げた絶好調男が今週はどんな競馬を見せてくれるのか。注目したい一戦だ。

(文=ハイキック熊田)

<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?

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