JRA「ウチの流儀じゃない」C.ルメールの“不満騎乗”から2年3か月、エアグルーヴ一族の良血馬がついに才能開花!?
今週末の中央競馬は、先週に引き続き東京・阪神・小倉の3場開催。土曜の阪神メインは第57回京都牝馬S(G3)が行われる。
有力視される1頭がC.ルメール騎手とのコンビで臨むスカイグルーヴ(牝5歳、美浦・木村哲也厩舎)だ。これが昇級初戦にもかかわらず、14日現在の『netkeiba.com』の単勝予想オッズではギルデッドミラーに次ぐ2番人気に支持されている。
スカイグルーヴの魅力は何といってもその血統だろう。父は大物を次々と送り出しているエピファネイア。そして母系はその馬名からも分かるとおり、エアグルーヴに代表されるいわゆるダイナカール一族である。
母は重賞勝利こそなかったが、京阪杯(G3)2着、スワンS(G2)3着など、古馬になってから短距離路線で活躍したアドマイヤセプター。その母がエリザベス女王杯(G1)2連覇を成し遂げ、二冠馬ドゥラメンテの母としても知られるアドマイヤグルーヴで、祖母にエアグルーヴがいる名牝である。
その血統背景からデビュー当初からスカイグルーヴに対する期待値は高く、2歳11月の新馬戦を期待に違わぬ強さで圧勝。デビュー2戦目の京成杯(G3)は2着に敗れたが、勝ちに等しい内容で、オークス(G1)の有力候補に名乗りを上げた。
しかしオークス前哨戦のフローラS(G2)で1番人気を裏切り5着に敗れると、オークスを断念。秋始動戦の紫苑S(G3)でも1番人気に支持されたが9着に完敗し、牝馬三冠レースへの出走は叶わなかった。
その後は短距離路線へと舵を切り、3勝クラスで出直しを図ったが、ここでも足踏みが続いてしまう。ようやく2勝目を挙げたのは昨年10月に行われた前走の白秋S(3勝クラス)。デビュー戦Vから2年近くが経っていた。
スカイグルーヴの出世が遅れてしまったのには幾つかの要因が考えられる。一つが気性の難しさだろう。母アドマイヤセプターが現役時代に気性が激しかったのは有名な話だ。父のエピファネイアも同様で、スカイグルーヴが3歳時に馬体重の増減が大きかったこともそれを裏付けている。
そして、スカイグルーヴの成長を妨げたと考えられるもう一つの要因が、デビュー戦の内容にあるという。
「単勝オッズ1.4倍の圧倒的人気を集めたスカイグルーヴは、先手を取りスローに落とした逃げを展開しました。直線でも余力をたっぷり残し、最後は後続に5馬身の差をつけて圧勝。『すごいです。能力があります。最後の直線は、ずっと加速して伸びていました』というルメール騎手のコメントも印象的でした」(競馬記者)
ところが、この圧勝劇に不満の表情を浮かべた人物がいた。それがスカイグルーヴを管理する木村調教師だった。
「木村調教師はデビュー戦勝利後、『東京スポーツ』の取材に、『デビュー戦でハナを切るのはウチの流儀じゃない』と答えています。検量室で大喜びのルメール騎手とは対照的に木村調教師はうなだれていたとか……。ルメール騎手の騎乗に納得がいかなかったのでしょう」(同)
「逃げは最後の手段」
この言葉は昨年『netkeiba.com』に掲載された川田将雅騎手のインタビュー記事『In the brain』からの引用だ。詳細はコラムをご覧いただきたいが、川田騎手は「数を勝つなら逃げるのが一番」と認めつつも、「安易に逃げたことで我慢が利かなくなったりして、多くの馬が出世しづらくなる」と、その副作用にも言及している。
木村調教師の真意は分からないが、やはりデビュー戦で逃げることは後の競走生活に悪影響を及ぼす可能性があると考えていた可能性は高い。
もしルメール騎手があのときスカイグルーヴに我慢することを覚えさせていたら――。そんな“たられば”も頭をよぎるが、2年以上が経過し、再び重賞の舞台に戻ってきたのは紛れもない事実だ。
遅れてきた大物スカイグルーヴは、2年前に目前で逃した重賞制覇に手が届くところまできている。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。