JRAダノンザキッドはなぜ弾けなかったのか? 川田将雅「返し馬は抜群によかった」も……、中山記念(G2)凡走に気になるコメント

 27日、中山競馬場で行われた伝統のG2・中山記念は、吉田豊騎手の2番人気パンサラッサ(牡5、栗東・矢作芳人厩舎)が優勝。2着に今月一杯で引退の高橋祥泰調教師が送り出したカラテ、3着には昨年の皐月賞4着馬アドマイヤハダルが入った。

 かつては稀代の快速馬サイレンスズカも制した中山記念。あれから24年、2022年に往年の名馬を彷彿とさせる逃げ切りを決めたパンサラッサと吉田豊騎手もまた、大きな一歩を踏み出したのかもしれない。

 昨年11月のオクトーバーS(L)でファンの度肝を抜く大逃げを披露したのが、当時初コンビだった吉田豊騎手だ。伸び悩んでいたパートナーの素質をモデルチェンジで開花させた閃きもまた素晴らしかった。

 中山記念を快勝したことにより、今後の目標は4月の大阪杯(G1)が濃厚。ついていった馬が潰れるほどのハイペースで飛ばすスピードは、エフフォーリアにとっても脅威となるに違いない。出走してくるようなら面白い存在になりそうだ。

ダノンザキッド

 令和のサイレンスズスカともいえそうなパンサラッサに対し、1番人気に支持されながらも見せ場なく敗れてしまったのが、川田将雅騎手のダノンザキッド(牡4、栗東・安田隆行厩舎)だ。

 メンバー唯一のG1勝利実績を持つ同馬は、ここでは抜けた存在であり、2歳時に2000mのホープフルS(G1)を勝った舞台なら問題はなかったはずだ。にもかかわらず、後方待機策のまま追走にも余裕がない道中の行きっぷり。勝ち馬から1秒4も離された7着のゴールは、元々の能力を考えると不可解な敗戦にも映る。

 1週前追い切りでは、栗東CWで6F82.5からラスト1ハロン11.0、最終追い切りでも6F87.7からラスト1ハロン11.4をマークしたように時計的にも悪くない内容だった。

 ダノンザキッドを管理する安田隆行調教師も「毛ヅヤも良くみせていて、休み明けでも体調は良さそう」と前向きなコメントを残しており、中間の状態は至極順調にも思えた。

 では、距離も能力も問題ない馬が、なぜここまでの大敗を喫してしまったのか。

「デビューから中距離を3連勝してG1馬になった馬ですが、3歳春の弥生賞(G2)を3着に敗れてからは、距離に不安がある感じでした。1番人気で皐月賞を15着に大敗後、骨折して休養明けの復帰に選ばれたのは、マイルの富士S(G2)です。

5番人気のマイルCS(G1)3着に入りましたが、スローペースからの切れ勝負となったレースで好走したことからも、距離短縮が功を奏したと考えていいでしょう。ただでさえ1ハロン長くなる中山記念でパンサラッサがハイペースで飛ばしたとなると、スタミナのない馬には厳しい展開。弱点を露呈したように感じます」(競馬記者)

 今年の中山記念がどれほど過酷なレースだったかというと、昨年のマイルCSの1000m通過59秒3を大幅に上回る57秒6のハイラップ。スローに落ち着けば、ある程度の誤魔化しは利いても、息を入れる暇もないラップが続くと、切れで勝負するタイプの馬は脱落してもおかしくない。

 また、一見何の問題もないように思われた最終追い切りでも、少なからず不安な予兆はあった。追い出されてからも頭を上げるシーンもあり、フットワークにもどことなくスピードに乗り切れていない動きに見えたのは気のせいではないだろう。

 ただ、レース後の川田騎手からは、それ以外にも気になる言葉も飛び出した。

川田将雅騎手

 レースを振り返り「返し馬は抜群に具合が良かった。馬に中山に嫌な記憶が残っているのか、全く走る気になってくれなかった」とコメント。これが敗因なら事態はより深刻なものとなる。

 状態や距離の不安ではなく、皐月賞惨敗がまだ尾を引いているのなら、今後の競走生活にも影響を及ぼしかねない重大事だ。ドバイや大阪杯を見据えていた陣営にとって、得たものよりも失ったものの方が大きかった敗戦だったようにも思える。

 悩めるG1馬の次走に、陣営はどのような選択を選ぶだろうか。これが中山だけの問題ならいいのだが……。

(文=高城陽)

<著者プロフィール>
 大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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