JRA C.ルメール「運命のいたずら」によって引き裂かれた5年前の記憶。オークス3着馬の妹に託されたクラシックへの再挑戦
「クラシックも絶対いけます」
今から5年前の2017年2月。クイーンC(G3)をアドマイヤミヤビで勝利したC.ルメール騎手は、興奮気味にそう語った。新馬戦こそ2着に敗れたものの、そこから破竹の3連勝で重賞を制し、一躍クラシックへの主役候補に名乗りをあげたのだ。
しかし、次戦の桜花賞(G1)の鞍上には、デビューからコンビを組んでいたルメール騎手の姿はなかった。なぜなら前年の阪神JF(G1)の覇者で、当時絶対的女王として君臨していたソウルスターリングを選んだからだ。
本番では、パートナーと離れ離れになったアドマイヤミヤビに、M.デムーロ騎手が初めて跨ることになった。最終的に単勝2番人気に支持されるも痛恨のスタートミスが響き、最後方からほぼ何も出来ず12着と思わぬ大敗を喫した。
その後、クラシック2戦目のオークス(G1)でも、状況が変わる事はなかった。前走と同じくデムーロ騎手とのコンビで、最後は怒涛の追い込みで3着に食い込む意地は見せたが、はるか先で1着にゴールしたのは、ルメール騎手とソウルスターリングだった。
クラシックで結果を残したコンビが解散することは考えづらく、ルメール騎手とアドマイヤミヤビの再コンビ結成の可能性は、限りなく低いと思われた。
ところが、運命は動き出す。
オークスを制したソウルスターリング陣営は、秋の目標を秋華賞(G1)ではなく天皇賞・秋(G1)に定め、毎日王冠(G2)から始動することになったのだ。
そんな経緯もあり、秋華賞を目標にローズS(G2)への出走を予定していたアドマイヤミヤビとルメール騎手の再コンビ結成が実現。レース直前の最終追い切りにも同騎手が駆け付け、復活の態勢は整ったかに見えた。
しかし、ここで予想外のアクシデントが発生する。
最終追い切り後に左前脚屈腱炎を発症してしまうという、あまりに痛すぎる出来事に、目の前のローズS出走はおろか、復帰まで見通しが立たない状況に追い詰められた。その後、陣営はすぐに引退を決断。ついに、再コンビ結成は幻と消えた。
奇しくもその年の秋華賞では、ルメール騎手がテン乗りとなったディアドラと牝馬クラシック最後の一冠も手にする。「もしアドマイヤミヤビが順調だったら…」と感じてしまう、まさに「運命のいたずら」だった。
あれから5年が経った今月20日。中山競馬場で行われた4Rの3歳未勝利で、昨年デビューしたアドマイヤミヤビの妹レディナビゲーターが5戦目にして待望の初勝利をあげたのだが、その背中にはルメール騎手の姿があった。
アドマイヤミヤビには弟と妹が2頭ずついるが、ルメール騎手が跨った経験があるのはこのレディナビゲーターだけなのだから、秘めたる想いがあるかもしれない。デビュー時から惜敗が続いても、手綱を誰かに譲ることはなく、ようやくコンビで勝利を手にした。
来月行われる桜花賞への出走は叶わなかったが、オークスや秋華賞までは時間が残されている。度重なる「運命のいたずら」により引き裂かれた、ルメール騎手とアドマイヤミヤビのクラシックへの挑戦の続きは、妹レディナビゲーターに託された。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?