JRA M.デムーロ「大誤算」の痛恨2着。安藤勝己氏「キストゥヘヴンの子やで」大波乱の主役から一転、今年の重賞3勝目スルリ……

 2日、中山競馬場で行われたダービー卿チャレンジT(G3)は、11番人気のタイムトゥヘヴン(牡4歳、美浦・戸田博文厩舎)が勝利。昨年のニュージーランドT(G2)で2着した素質馬が、同じ中山1600mで復活の重賞初制覇を飾った。

 16頭立てで行われたレースの最後の直線。スタートこそ一息だったものの、1番人気ダーリントンホールの横山武史騎手の騎乗はほぼ完璧だった。あとは目の前を行く2番人気のグラティアスをパスすれば、相棒に一昨年の共同通信杯(G3)以来の重賞をプレゼントできるはずだった。

 しかし、最大のライバルを捕まえようと馬体を併せたのも束の間。外から伸びてきた12番人気のフォルコメンに並ぶ間もなく交わされてしまい、重賞2勝目は露と消えた。

 次の瞬間、勝利を確信したのはフォルコメンの鞍上M.デムーロ騎手だったはずだ。何せ直前にパスしたのが1、2番人気である。相棒の手応えも十分。あとはそのままゴール板を通過するだけだった。

 だが次の瞬間、フォルコメンよりもさらに外から猛烈な勢いで交わし切ったのが、大野拓弥騎手とタイムトゥヘヴンだった。前者は12番人気、後者は11番人気という穴馬である。

「勝ち馬から4着馬までが0.2秒差という、ハンデ戦らしい激戦でしたね。ゴール前は先頭が次々入れ替わる非常にスリリングなレースでした。

3番人気のリフレイムが飛ばしたことで、前半の800m通過は45.5秒のハイペース。先に抜け出したのはグラティアスやダーリントンホールといった中団・好位組でしたが、最後は後方から直線に懸けたフォルコメンやタイムトゥヘヴンといった後方待機組に捕らえられてしまいました」(競馬記者)

M.デムーロ騎手

 実は勝ったタイムトゥヘヴンは、かつてデムーロ騎手が主戦を務めていた馬だ。ここまでニュージーランドTの2着や京成杯(G3)2着という実績があったが、いずれもデムーロ騎手の手綱によるものだった。

「初めて乗りましたが、良い馬です」(京成杯)
「最後までしっかり走っていますし、これなら今後が楽しみです」(ニュージーランドT)

 コメントからもわかる通り、タイムトゥヘヴンを高く評価していたデムーロ騎手は共に昨年のNHKマイルC(G1)を戦った間柄だ。だが、続く日本ダービー(G1)でデムーロ騎手がアドマイヤハダルに騎乗したためコンビ解散。以降は関東のジョッキーが騎乗し、この日の大野騎手は2度目の騎乗だった。

「一瞬、してやったりと思ったデムーロ騎手にしても、まさかの展開だったのではないでしょうか。タイムトゥヘヴンは前々走、前走と同じ中山1600mのオープン(リステッド)を走って7着、11着。11番人気は妥当な評価だと思っていたのですが……」(別の記者)

 昨秋の富士S(G2)で3着したとはいえ、近走の走りからは“終わった感”もあったタイムトゥヘヴン。春の中山重賞でのいきなりの復活劇には、もしかしたら「血」が騒いだのかもしれない。母の主戦だった安藤勝己氏が自身のTwitterで激走の要因を語っている。

「キストゥヘヴンの子やで、欲を出さずにこういう展開が合うんやね」

 かつて安藤騎手とのコンビで2006年の桜花賞(G1)を制したキストゥヘヴン。その後は桜花賞馬らしからぬ低迷が続いたが、京成杯AH(G3)1着、そして引退レースとなった中山牝馬S(G3)でも1着と、何故か中山の重賞では別馬のように走った。

「一気に差し切ったと思ったけど……外の馬の脚が凄かった」

 レース後、そう悔しさを露わにしたデムーロ騎手。言われてみれば、タイムトゥヘヴンの京成杯もニュージーランドTも、そして今回のダービー卿CTもいずれも中山の重賞。今年の重賞3勝目を目前で逃したデムーロ騎手は、もう少しかつて惚れ込んだ相棒を警戒すべきだったのかもしれない。

(文=銀シャリ松岡)

<著者プロフィール>
 天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。

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