JRA 皐月賞(G1)2戦2勝で挑むイクイノックスとダノンベルーガの“課題”…この「30年」で乗り越えたのはわずか2頭、実力馬に囁かれる弱点
17日、中山競馬場では牡馬クラシックの一冠目・第82回皐月賞(G1)が行われる。
昨年12月に朝日杯FS(G1)を制したドウデュースと、ホープフルS(G1)を制したキラーアビリティの2歳王者が無事にここまで駒を進めてきただけでなく、別路線からの注目馬も参戦が決定。まさに3歳牡馬王者を決めるにふさわしいラインアップとなった。
2歳G1を制した両横綱に負けず劣らずの人気を集めそうなのが、2戦2勝で大舞台に挑むイクイノックスとダノンベルーガの2頭である。
イクイノックスは昨年8月に新潟の新馬戦で圧巻のパフォーマンスを見せて注目を浴びると、11月の東京スポーツ杯2歳S(G2)も完勝。新馬戦で負かした相手には後に阪神JF(G1)を勝って桜花賞(G1)でも4着に入ったサークルオブライフがおり、東スポ杯でもアサヒをはじめ、後のきさらぎ賞2着のダンテスヴュー、シンザン記念3着のレッドベルアームといった同世代の強敵をまるで寄せ付けない強さを見せて、一躍クラシック候補へと名乗りを上げた。
しかし、今回の皐月賞はその東スポ杯以来となる5カ月ぶりのキャリア3戦目。背腰を中心に疲労が溜まりやすい体質を考慮し、前哨戦を挟まずにぶっつけでクラシック初戦に臨むという異例の決断がどう出るか。今年いまだJRAでの重賞勝ちがない鞍上のC.ルメール騎手ともども不穏なムードが漂う。
ダノンベルーガは昨年11月に東京の新馬戦で上がり33秒1という豪脚を使って快勝。大器の片鱗を見せつけると、今年2月の共同通信杯(G3)では稍重の馬場も苦にせず2連勝で重賞初勝利。負かした相手も札幌2歳S(G3)を勝ったジオグリフに、後にスプリングS(G2)を勝つビーアストニッシドなど、この世代の有力馬がズラリと並んでいるだけに、価値ある勝利となった。
こちらは春の大目標を日本ダービー(G1)に定めており、皐月賞の出走可否については「1週前の調教後の状態を見てから決める」という慎重な姿勢を示していた。そんな中、堀宣行調教師は8日に「オーナーサイドと相談して出走する方向を固めました」と正式に出走を表明。追い切りを担当した川田将雅騎手から「(右回りを)使わない理由はない」という進言があったことも追い風となったようだ。
この2頭の参戦決定により、まさにこの世代の“オールスター戦”の様相を呈している今年の皐月賞。両馬はともにデビューから2戦とキャリアが少なく、もしここも難なく突破して3連勝となれば、2歳戦が実施されるようになった1946年以降では最少キャリアでの皐月賞制覇という快挙も付いてくる。
この「30年」で乗り越えたのはわずか2頭
一方で、課題として挙げられているのが「初の中山コース」という点。先ほど紹介した川田騎手のコメントの中にも「右回り」というワードが出てくるが、イクイノックスは新潟と東京の2戦しか経験がなく、ダノンベルーガも東京で2戦。中山競馬場とは真逆の「左回り」で「直線が長い」コースしか走ったことがないのだ。
中山・芝2000mと言えば、JRAの主場の中でも屈指のトリッキーなコースとして知られ、後にダービーを勝つような馬でも皐月賞は取りこぼしてしまったという例は数知れず。逆に初の右回り挑戦で皐月賞を制したという例は、直近30年で見ても2015年のドゥラメンテと2014年のイスラボニータの2頭しか出ていない。
思い返せば、ドゥラメンテは単勝4.6倍の3番人気、イスラボニータも単勝5.1倍の2番人気での勝利。実績を考えれば1番人気に推されても不思議ではなかった中、人気が落ちた背景には、やはり「初めての右回り」が嫌われたという部分もあったことだろう。
イクイノックスとダノンベルーガも過去の名馬と同じように、ポテンシャルの高さでこの壁を乗り越えていくことができるのか。快挙に挑む2頭から目が離せない。
(文=木場七也)
<著者プロフィール>
29歳・右投右打。
本業は野球関係ながら土日は9時から17時までグリーンチャンネル固定の競馬狂。
ヘニーヒューズ産駒で天下を獲ることを夢見て一口馬主にも挑戦中。