JRAタイトルホルダーは「何故」歴史的大差で圧勝できたのか。元JRA騎手・藤田伸二氏が指摘し、最大のライバル和田竜二が泣いたアクシデント
まさに目の覚めるような圧勝劇だった。
1日、阪神競馬場で行われた長距離王決定戦、天皇賞・春(G1)は2番人気のタイトルホルダーが7馬身差で圧勝。鞍上の横山和生騎手はデビュー12年目にして、嬉しい初G1をゲットした。
「とってもうれしいです。返し馬の雰囲気で馬の良さは感じていたので、タイトルホルダーの力を信じて『僕が邪魔しないように』と思いながら乗りました」
レース後、そう喜びを爆発させた横山和騎手は、これで祖父・富雄、父・典弘に続く親子3代制覇。7馬身差はグレード制導入以降、横山典騎手のイングランディーレと並ぶ史上最大の着差だった。
単勝4.9倍の2番人気馬が、G1でここまでの圧勝劇を演じるケースは稀だ。逃げが上手くハマったという指摘もあるが、タイトルホルダーは昨年の菊花賞も5馬身差の圧勝。単なる作戦勝ちでないことは明らかだろう。
ちなみにタイトルホルダーが、今回の天皇賞・春を圧勝する可能性については前回に触れた通り。要約するとグレード制導入以降の菊花賞を5馬身以上で制したのは、過去にナリタブライアン(7馬身差)、スーパークリーク、ビワハヤヒデ、エピファネイア(5馬身差)と本馬しかいなかったということだ。
この時点で今回の圧勝劇の可能性は十分にあったわけだが、記者が「結果的に勝因の1つになった」として指摘した点も興味深い。
タイトルホルダーの圧勝劇は「運」も味方した?
「スタート直後にシルヴァーソニックが躓いて、川田将雅騎手が落馬するアクシデントがありました。幸い、人馬とも無事だったそうですが、スタート直後の落馬ということで、空馬になったシルヴァーソニックが終始レース全体に微妙な影響を与えていましたね」(競馬記者)
記者が指摘したのは、レースの中盤以降となる正面スタンド前から勝負どころの3、4コーナーのシーンだ。
スタート直後のアクシデントで後方となったシルヴァーソニックだが、徐々にポジションを上げると、正面スタンド前の直線から向正面辺りまで好位グループの中にいた。
ここには、結果的に2着となる1番人気ディープボンドや、3着に終わった4番人気テーオーロイヤルなど、つまりはタイトルホルダーにとって最も厄介なライバルたちがいたのだ。
この現象については、ディープボンドの和田竜騎手も「カラ馬がいたので、リズムを崩さないように運びました」と、やはり気を遣っていたようだ。
また、元JRA騎手の藤田伸二氏も自身のYouTubeチャンネルで「(テーオーロイヤルの)菱田とか(ディープボンドの和田)竜二とかは『空馬が外に出てきたらやべえな』とか、そういう不安感もあるし、全力のプレーはできなかったんじゃないかなっていう気もするけどね」と分析。
「もし、オレが乗っててもイヤだしね」と、やはり小さくはない影響があった可能性を指摘している。
「馬は本能的に集団で走ることを好むため、シルヴァーソニックも馬群に入るような形で走行していましたが、空馬はジョッキーが乗っていない分、“いつ”“どう動く”のか予測がつきません(実際にシルヴァーソニックは、ゴール板通過後に外柵に突っ込んで転倒している)。そのため、一緒に走っている周囲のジョッキーは見た目以上に気を遣わされるそうです。
そういった点で、タイトルホルダーと横山和騎手は集団を離すような感じで逃げていたので、空馬になったシルヴァーソニックの影響が最小限で済みました。ゴール前で追いついてきましたが、すでに大勢が決した後でしたからね」(同)
「タイトルホルダーはこの先、まだまだ良くなる余地がたくさん残っている馬だと思っています。その中で、このような結果をしっかり出してくれるというのは、この先楽しみが広がります」
レース後、そう語った横山和騎手。勝つときはすべてが上手くいくものというが、まさにこの日は本来の実力だけでなく、運まで人馬に味方した結果の歴史的圧勝劇だったのかもしれない。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。