JRA武豊「弱気発言」に16年ぶり“公開謝罪”も!? NHKマイルC(G1)エルコンドルパサー、キングカメハメハ時代の「終焉」が示唆するものとは
「本来は1200mの馬。もともとは葵S(G3)を狙っていたけど、(トライアルを)勝ったから……」
『スポーツ報知』の取材にそう答えたのは、今週末のNHKマイルC(G1)でジャングロ(牡3歳、栗東・森秀行厩舎)に騎乗する武豊騎手だ。
武豊騎手の言葉通り、ここまで8戦4勝のジャングロは7戦で馬券圏内を確保している堅実派。だが、唯一6着に敗れたベゴニア賞(1勝クラス)が、NHKマイルCの舞台と同じ東京・芝1600mだった。
さらに勝ち星を見ても1200mのオープンで2勝。前走、久々の1600mをアタマ差で押し切ったことでマイル王決定戦に駒を進めたが、「本来は1200mの馬」と語る主戦騎手が弱気になるのも当然か。
そんな武豊騎手の言葉に識者やファンも共感したのか、ジャングロの評価はトライアルの勝ち馬にしては決して高くないようだ。
ジャングロの距離不安は「買い」のサイン?
大手競馬ポータルサイト『netkeiba.com』の想定オッズによると、ジャングロは4、5番人気と予想されている。3歳マイル王決定戦なのだから、昨年の朝日杯フューチュリティS(G1)の2、3着馬であり、マイル重賞を勝利しているセリフォスとダノンスコーピオンが人気を分け合っている。
他にもマイルのシンザン記念(G3)を勝ったマテンロウオリオン、マイルのジュニアC(L)を2馬身半差で快勝したインダストリアら「マイラー」が高く評価されてるのも妥当といえるだろう。
だが、NHKマイルCの歴史を紐解くと、意外にそうとは限らないのかもしれない。
1996年に3歳マイル王決定戦として創設されたNHKマイルCだが、古くから東京1600mをこなすには、スピードだけでなく「スタミナも重要」と言われてきた。
過去の勝ち馬を振り返ってもエルコンドルパサー(ジャパンC)やクロフネ(ジャパンCダート)、キングカメハメハ、ディープスカイ(共に日本ダービー)など、本競走勝利後に2000mを超えるG1レースを勝った名馬の名も並んでいる。
しかし、ディープスカイが勝った2008年以降、延べ13頭のNHKマイルCの勝ち馬は、後に2000m以上のG1どころか、重賞……いやオープンさえ勝っていないことは、あまり知られていない。
その要因には東京競馬場、そしてNHKマイルCの「スピード化」が進んでいることが挙げられるという。
「第1回のタイキフォーチュンが記録した1分32秒6は当時のレコードであり、古馬を含めた全体のレコード1分32秒4と0.2秒しか変わらないことが大きな話題になりました。しかし、あれから時が経って、昨年のシュネルマイスターの勝ち時計は1分31秒6と、当時の“スーパーレコード”から1秒も速くなっています。
また、この時期は天候も安定しており、NHKマイルCはディープスカイが勝った2008年以降、すべて良馬場。毎年のように高速馬場での好時計の決着が繰り返されているレースになりました。こうなると、昔よりも『スピード』の重要性が高まるのは必然だと思いますね」(競馬記者)
実際に、昨年の2着馬ソングライン、3着馬グレナディアガーズはNHKマイルC後に1400m以下の重賞を勝利するなど、マイル以下で適性を示している。また一昨年の勝ち馬ラウダシオン、2着レシステンシアも1400m以下の重賞を勝利。ディープスカイ以降の勝ち馬ジョーカプチーノ(シルクロードS)、グランプリボス、ミッキーアイル(共にスワンS)なども、高いスプリント能力を併せ持ったマイラーだった。
彼らは1600mを中心に「以上」か「以下」かと問われれば、間違いなく後者といえる馬たちだ。
「もちろん昨年の勝ち馬シュネルマイスターのようにマイル以上で活躍する馬もいるので、一概にスプリントでも通用するスピードがないとダメとは言えません。ただ、NHKマイルCは1400m以下に良績がある馬でも、マイルだからといってあまり割り引く必要はないということ。
ジャングロは確かに高いスプリント能力を見せていますが、過去の活躍馬を見れば本番でも好走できる可能性は十分にあると思います。案外、そのスピードが武器になるかもしれませんよ」(同)
「スピードだよね。トップスピードに入るのも速いし、いい走りをする」
ジャングロにそう期待を寄せる武豊騎手は2006年のロジック以来のNHKマイルC制覇を目指す。実はこの時、武豊騎手にとっては想定外の勝利だったようで、自身の公式ホームページでは「ロジックに謝るしかありません」と綴っている。
果たして、世代屈指の快速馬ジャングロは、武豊騎手の予想をいい意味で裏切ることができるだろうか。ちなみに現在の東京の週間天気予報に雨マークはない。例年通りの良馬場開催が期待できそうだ。
競馬を知り尽くすレジェンドジョッキーによる16年ぶりの嬉しい“公開謝罪”を心待ちにしたい。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。