JRAコントレイル弟も4億円ホースも未勝利……“裏切り続き”で日本ダービー(G1)も「蚊帳の外」名門厩舎に遅れてきた怪物候補
今年のクラシック戦線で思わぬ苦難が続いていた名門厩舎に“希望の光”が差し込んだ。
28日、中京競馬場で行われた5Rの3歳未勝利は坂井瑠星騎手の1番人気ディーンズリスター(牡3、栗東・矢作芳人厩舎)が優勝。デビューが遅れたため今回が初出走となったが、既走馬たちを相手に人気に応える見事な初陣を飾った。
12頭立ての芝2200mで行われたレース。スタートでやや立ち遅れたディーンズリスターだが、最初のコーナーまでに挽回して道中は後方4番手を追走。前半1000m通過タイム1分2秒1のスローペースを感じ取った鞍上は、果敢にも向正面から早めに押し上げ先頭集団へと詰め寄る。
最後の直線に入ると、一気に大外へと持ち出してラストスパートを開始。徐々にエンジンがかかると内目にいた先頭集団をまとめて交わす豪脚一閃。同じように外から伸びてきていたリヴィアの追撃も頭差しのぎ切った。
「レース後には手綱を取った坂井騎手が『まだまだ良化の余地を残す』とコメントしていた通り、道中ではやや走りに幼さも見えました。ですが、スタートで出遅れながらも早めのロングスパートに応えて差し切ってしまうあたりは、ポテンシャルの高さを感じます。血統背景からも今後の伸び代に期待できそうです」(競馬誌ライター)
ディーンズリスターは父ディープインパクトと母ラヴズオンリーミーの間に生まれ、全兄には2016年のドバイターフ(G1)を勝ったリアルスティール、全姉に昨年のブリーダーズCフィリー&メアターフ(G1)を含め海外G1を3勝したラヴズオンリーユーがいる超良血だ。
POG(ペーパーオーナーゲーム)が始まる昨年の今頃から大きな注目を浴び、『JRA-VAN』主催のPOG2021では指名馬ランキング5位、『netkeiba.com』主催のPOGダービーでも同ランキング2位と人気を集めていた。
偉大なる兄姉ともに管理していた矢作師も、昨年のPOG関連の取材に対して「きょうだいのなかで一番いい」とトーンは高かったが、デビュー前の昨年10月に故障が判明して戦線離脱。結局、デビュー戦は無情にも大方のPOGが終わるダービーウィークとなってしまった。
意外な苦戦が続く矢作厩舎に差した光明
振り返れば昨年の新馬シーズンから今年の牡馬クラシックに至っては、思うような結果を残せなかった矢作厩舎。前評判の高かった無敗の3冠馬コントレイルを兄に持つサンセットクラウドや、4億円ホースのダノンマイソウルなどが、いまだ1勝すらあげられない厳しい現状だ。
過去にディープブリランテ(2012年)やコントレイル(2020年)で日本ダービー(G1)を制した名門厩舎でさえも、今週のダービーウィークは完全に「蚊帳の外」である。
そんな中でのディーンズリスターの勝利は、クラシック最後の一冠となる菊花賞(G1)制覇へ望みを繋げる価値あるものとなった。
「デビューは予想外に遅れてしまいましたが、過去には3歳の4月にデビューして2008年の菊花賞を制したオウケンブルースリや、ダービー前日にデビューして10着に敗れながらも、2014年の菊花賞をレコード勝ちしたトーホウジャッカルなどの例もあります。
どちらもトライアルの神戸新聞杯(G2)で3着以内に入って出走権利を取り、見事に本番で勝利しG1馬の仲間入りを果たしました。例えデビューが遅れたとはいえ、可能性はまだまだ残っていますよ」(同)
昨年、厩舎の看板を背負っていたコントレイルやラヴズオンリーユーなどが続々と引退したことで、次世代のスター候補を渇望していた名門厩舎にとっては、一筋の光がみえてきた。偉大なる兄姉に続くべく、弟のディーンズリスターの今後にも期待が高まる。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?