JRA「トーセン軍団」の切り込み隊長が「21馬身差」最下位デビューの絶望……全盛期「10億円」→今年「7800万円」かつての爆買いオーナー復権のシナリオは
2020年に生まれた2歳馬による新馬戦が先週末から始まった。東京と中京で土日あわせて5頭が勝ち名乗りを上げた一方で、54頭が黒星スタートを切った。
4日、東京で行われた2歳新馬はノッキングポイントが完勝。「良いスタートを切って、道中は我慢ができて、だんだんペースアップしてゴールまで伸びてくれました。能力がありそうです」と騎乗したC.ルメール騎手は同馬のポテンシャルを褒めちぎった。
その一戦で、13頭立ての13着でゴールしたのがトーセントゥーリオ(牡2歳、美浦・小野次郎厩舎)という馬だ。
スタートから行き脚がつかず、鞍上の横山和生騎手は終始追い通し。後方2番手で4コーナーを回ると、直線も伸びを欠いて、終わってみればノッキングポイントから遅れること3秒5、着差にして約21馬身差の最下位でゴールした。
「2歳戦の開幕週はサトノダイヤモンド、サトノクラウン、ミッキーロケットという新種牡馬の産駒が勝利を挙げました。今年は他にもリアルスティールや海外から輸入されたマインドユアビスケッツ、デクラレーションオブウォーなど注目の新種牡馬が目白押しです。
実はトーセントゥーリオの父マクマホンも新種牡馬の1頭。イタリアで生産され、現役時代はイタリアダービー(G2)とカタールダービー(G1)を勝ち、“ダービー2勝”という肩書を持っています。マクマホンが現役引退後、種牡馬として日本に導入したのが『トーセン』の冠名で知られる島川隆哉氏でした」(競馬誌ライター)
かつては馬主を代表する1人だったトーセンの島川氏
島川氏といえば、かつてセレクトセールで良血馬を爆買いし、一時は金子真人氏や「アドマイヤ」の近藤利一氏らと並び称されるほど派手な活躍をした大物馬主だ。2011年にはトーセンジョーダンの活躍もあって10億円近くの賞金を獲得。その年は「メイショウ」の松本好雄氏、近藤氏、金子氏らをも上回る馬主リーディング8位にランクインした。
ところが、11年をピークに勢いは徐々に弱まっていく。17年に獲得賞金が5億円を割り込むと、昨年は約3億円に。そして今年は6月1週目を終えた時点で約7800万円と低迷している。
「島川氏は、馬主になって10年目の06年にエスティファームという牧場を設立しました。サラブレッドの生産から育成までを担う総合牧場で、現在は繁殖牝馬だけで100頭ほど抱えています。いつしかセレクトセールでの爆買いは控えめになり、自家生産に注力。現在は所有馬の多くがエスティファームの生産馬という状況です。馬主としての成績が落ち込んでいるのは自家生産馬が思ったほどの結果を残せていないことが大きいですね。
生産馬の多くは、トーセンホマレボシやトーセンジョーダン、トーセンファントムなど自身が所有した種牡馬の産駒です。ただし、どの馬も種牡馬として成功しているとは言い難いのが現状。そこで島川氏が起爆剤として白羽の矢を立てのたがマクマホンでした」(同)
マクマホンは3代父がマルジュ、その父がトライマイベストなので父系はサトノクラウンと同じ。島川氏は初年度からフェアリーS(G3)勝ちがあるトーセンベニザクラなど主要繁殖牝馬と交配させ、26頭が血統登録されている。
地方ではサムタイムアゴーという馬が4月25日に浦和でデビュー。南関東では今年最初の2歳戦で単勝1.1倍の人気に応え初陣を飾っていた。それだけにトーセントゥーリオの走りにも注目が集まったが、期待外れの結果に終わってしまった。
イタリア調教馬の輸入種牡馬といえば、30数年前に導入された凱旋門賞馬のトニービンが思い出される。エアグルーヴやジャングルポケットなど数多くのG1馬を輩出し、当時はサンデーサイレンスと張り合うほどの活躍を見せた。
現役時代の実績、また血統背景からも「第二のトニービン」を目指すのはさすがに荷が重いか。それでも「トーセン軍団」復権のカギは間違いなくマクマホンが握っているはずだ。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。