JRA武豊も懇意の大物オーナーが事実上、半世紀の馬主生活に幕…「タニノ」だけではない、時代を彩った名物「軍団」が続々消滅の危機
時代を築いた冠名が1つ、また1つと消えてゆく……。
3日、「タニノ」の冠名で知られる谷水雄三オーナーの所有するタニノヨセミテ号がJRA登録を抹消された。これで中央競馬における谷水氏の現役所有馬は0に、今後も新規に登録される予定はなく、事実上の馬主引退となる。
谷水氏の所有した黄色・水色襷の「タニノ」軍団には数々の活躍馬がいた。古くは1974年の有馬記念などを制したタニノチカラ、近年では日本ダービー(G1)を父娘で制したタニノギムレット、ウオッカといったように、長年に渡り数多くの活躍馬を輩出してきた。
「タニノ」軍団最後の1頭となったタニノヨセミテを管理していたのは、ウオッカが日本ダービーを制覇した際に手綱を握った四位洋文現調教師。更にラストランとなった先月28日の御在所特別(2勝クラス)では、タニノギムレットとのコンビで日本ダービーを制した武豊騎手が騎乗。結果は9頭立ての9着に終わってしまったが、縁深い騎手・調教師と共に「タニノ」軍団は半世紀以上の歴史に幕を下ろした。
なぜ「タニノ」の冠名が姿を消すこととなったのか……。その理由は「跡取り問題」にあるという。
「ニシノ」の西山茂行オーナーが明かした跡取り問題
谷水氏と親交がある「ニシノ」「セイウン」の冠名で知られる西山茂行オーナーが10日、同氏のブログにてその真相を明かした。西山オーナーによると、どうやら谷水氏のご子息は若い頃から「私は馬はやりません」とキッパリ宣言していたそう。
どうやら「タニノ」冠を受け継ぐ跡取りがいないことは周知の事実だったようで、西山氏も「まあ、それほど驚く話ではないし、来るべき時が来ただけ。でもちょっと寂しいね」と綴っている。この率直なコメントは、他の関係者や我々競馬ファンの気持ちを代弁したものともいえるだろう。仕方が無い事とはいえ、世代を超えて親しまれてきた「タニノ」冠が姿を消すことは心寂しいものである。
こうした名物ともいえる「軍団」の消滅は、なにも「タニノ」に限った話ではない。競馬ファンにもなじみ深いある2つの冠名の“最後の日”が、刻一刻と近づいている。
その1つが「アドマイヤ」の冠名である。近藤利一氏が使用した冠名で知られ、アドマイヤベガ、アドマイヤグルーヴ、近年ではアドマイヤマーズといった活躍馬を輩出してきた。
馬主としての活動に精力的で、時に騎手起用などにも言及するなど「物言うオーナー」としても知られた近藤氏であったが、19年に他界。残された「アドマイヤ」軍団の名義は妻の近藤旬子氏に引き継がれることとなった。
しかし旬子氏は利一氏とは対照的に、それほど馬主活動には執心していない様子。20年には所有していた2歳馬7頭を他のオーナーに譲渡し、話題を呼んだこともあった。
「アドマイヤ」冠をもつ馬は着々と数を減らしており、JRAに登録のある現3歳世代は5頭、2歳世代は現時点でわずかに1頭に留まっている。この様子を見るに、「アドマイヤ」冠が姿を消す日はそう遠くはないかもしれない。
「アドマイヤ」以上にその幕引きが近々に迫っているのが、「ダイワ」軍団である。「ダイワ」は大城敬三氏が使用していた冠名であり、ダイワメジャー・ダイワスカーレットの兄妹などの活躍馬を輩出してきた。
数多くの名馬を所有した名物オーナーともいえる存在であった大城氏だが、20年6月に病気のため他界。その死後まもなくエプソムC(G3)を制したダイワキャグニーなどの所有馬は息子の大城正一氏に引き継がれることとなった。
しかし、正一氏に所有馬が引き継がれて以降、新規にJRAに登録が行われた「ダイワ」冠の馬は1頭もいない。現在は先述のダイワキャグニーを含めてわずかに3頭しか現役馬がおらず、冠名が姿を消す日は目前に迫っているといえる。
近年では藤田晋氏や三木正浩氏のような新興オーナーの台頭が目立つが、その一方でファンにもなじみ深い冠名が続々と消滅しようとしている。時代は変わりゆくものであり、仕方の無い事ではあるが、ファンとしては寂しさを感じてしまう。
「タニノ」軍団はついに姿を消してしまったが、「アドマイヤ」「ダイワ」の冠名を持つ馬はわずかながらに残っている。かつてターフを沸かせた2つの冠名を背負う馬たちの最後の活躍に期待したい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。