JRA「実質最下位」シャフリヤールにアウェーの洗礼…武豊の夢にも立ちはだかる障害、「タイムトライアル」慣れした日本馬の課題も浮き彫り

シャフリヤール 競馬つらつらより

 またしても新しい扉を開くことはできなかった。

 現地時間15日、イギリスのアスコット競馬場で行われたプリンスオブウェールズS(英G1)は、ハナを奪ったS.クロース騎手の4番人気ステートオブレストが、ゴールまで交わされることなく押し切り勝ち。3着に敗れた前走から巻き返しを決め、4つ目のG1タイトル奪取に成功した。

 このレースには日本から昨年のダービー馬シャフリヤール(牡4、栗東・藤原英昭厩舎)も参戦していたが、直線2番手から伸び切れず4着。5着ロードノースに目隠しをつけたままゲートが開くという致命的なアクシデントが発生したことを考えると、実質最下位とも受け取れそうな完敗といっていい内容だった。

「4コーナーを迎えるまで手応えは良かったのですが、直線で手前を替えてから思ったほど伸びず、最後は頭を上げて少し苦しそうでした」

 レース後、手綱を取ったC.デムーロ騎手がそう振り返ったように、道中は逃げたステートオブレストの2番手につける積極策。勝ち馬がそのまま最後まで逃げ切ったという結果からも、位置取りとしてはそれほど悪くなかったようにも感じられる。

 ただ、3歳で挑戦したジャパンC(G1)で3着に好走し、今年のドバイシーマクラシック(G1)でも世界の強豪相手に快勝したシャフリヤールも世界トップクラスの実力の持ち主であることは間違いない。1990mで行われるプリンスオブウェールズSなら、2400mで好走しているスタミナがあれば問題ないと考えたファンも少なくなかったはずだ。

「タイムトライアル」慣れした日本馬の課題も浮き彫り

 それでも通用しなかった理由の一つとして考えられるのは、やはり欧州特有のタフさを要求される馬場とコースだったのではないか。

「道中は良い感じで走れていたと思います。最後反応しきれなかったのは、アスコットの坂のせいかもしれないですし、慣れが必要なのかもしれません」

 シャフリヤールを管理する藤原英昭調教師も、舞台となったアスコット競馬場の坂について懸念があったことを匂わせるコメント。日本で最も高低差があるといわれる中山競馬場の約4倍にあたる20mの高低差を持つアスコットだけに、額面上の数字以上にスタミナとパワーを求められたということだろう。

 今から遡ること16年前の2006年、前年暮れの有馬記念(G1)で無敵を誇った無敗の三冠馬ディープインパクトに国内で唯一の土をつけたハーツクライが3着に惜敗したのもアスコットが舞台のキングジョージ6世&QES(英G1)だった。

 ドバイシーマクラシック経由での挑戦は、出走したレースこそ違えどもシャフリヤールと同じ。両馬のスケール感の差を比較すると、ある意味納得できる着順だったのかもしれない。

 そして、これはプリンスオブウェールズSやキングジョージ6世&QESに限らず、凱旋門賞(仏G1)においても決して無関係ではない。一部の関係者から「もはや別の競技」とすら評される世界最高峰の舞台は、過去にも多くの日本馬たちを返り討ちにしてきた。

 長年、日本競馬界の悲願とすら位置づけられてきたこのレースの適性には、国内での実力が必ずしもイコールではないことも表面化しつつある。

 これについては日本のレースに出走する外国馬にとってもまた然り。結果的に軽い馬場で極限のスピードを要求される日本の馬場が、外国馬からいつのまにか見向きもされなくなった大きな原因ともいえるだろう。お互いに求められる適性の異なる競馬をしているのだから……。

 松島正昭代表が「武豊騎手と凱旋門賞を勝つのが夢」と公言しているキーファーズの期待馬ドウデュースにしても、武豊騎手の史上最多ダービー6勝目を飾った今年の日本ダービー(G1)の勝ちタイムは、良馬場で2分21秒9というダービーレコード。この時点で既に欧州競馬への適性に疑問が残ったことも確か。

 レースが行われる度にレコード更新の文字を目にすることが珍しくなくなり、まるでタイムトライアルでもしているかのような現在の日本の競馬。アウェーの洗礼を受けたシャフリヤールの凡走により、今後の課題も改めて浮き彫りとなったのではないだろうか。

(文=黒井零)

<著者プロフィール>
 1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。

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