JRA武豊の「新人最多勝」超えで慢心!? デビュー年の勝利数を超えるまで11年の遠回り、元天才騎手の「身から出た錆」発言

今村聖奈騎手 撮影:Ruriko.I

 先週末のCBC賞(G3)でテイエムスパーダ(牝3、栗東・五十嵐忠男厩舎)で逃げ切り勝ちを決めた今村聖奈騎手。迷いなく逃げる選択をしたのは見事な判断だった。

 そのレース以上に今村騎手の評価を上げたのが直後の最終レースだ。1番人気キングズソードに騎乗し、中団追走から直線では前が詰まるシーンがありながら、インコースに進路を見つけると、最後は4馬身差をつけてメインレースに続く連勝を飾った。

 重賞初制覇の直後にルーキー離れした冷静沈着な騎乗を見てしまうと、いったいどこまで勝利数を伸ばすのかにも注目したくなる。

 3月のデビューから丸4か月が経過した今村騎手は、6月末までに月4勝ペースの合計16勝を挙げていた。そして7月は2日間で早くも3勝。ほぼ3場開催の夏競馬なら更なるペースアップにも期待ができそうだ。

 ルーキー騎手にとって一つの目安となるのがJRA賞最多勝利新人騎手に必要な30勝で31勝からG1への騎乗も可能となる。おそらくこれをクリアするのは時間の問題で、今のペースなら50勝も十分視野に入っているはず。今後さらに騎乗馬の質が上がってくれば、もしかしたら武豊騎手が1年目に記録した69勝も夢ではないかもしれない。

三浦皇成騎手

 ただし、今村騎手が69勝にたどり着いたとしてもJRAの新記録更新とはならない。数々の大記録を打ち立ててきた武騎手だが、JRAのルーキー最多勝利記録は08年に91勝を挙げた三浦皇成騎手が保持しているからだ。

 14年前に起こった“皇成フィーバー”も凄まじかった。出だしの3月は今村騎手と同じ4勝にとどまったが、4月から7月にかけて8勝→9勝→7勝→9勝。18歳の若武者は着実に勝ち鞍を積み上げていった。

 初めて月間10勝の大台に乗せたのは8月。上旬の函館2歳S(G3)でフィフスペトルに騎乗し重賞初制覇を飾ったこともあって、騎乗依頼とともに騎乗馬の質も大幅に向上。8月に14勝を挙げると、11月にかけて4か月連続で月間2桁勝利をマークするハイペースだった。

「1年目の三浦騎手の勢いは本当にすごかったですよ。特に夏の北海道シリーズでは好騎乗を連発し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。スポーツ紙などでは、『ポスト武豊』の文字が躍りました。

秋にはスプリンターズSでG1初騎乗も果たし、10月中旬には早くも武騎手が持つ69勝のルーキー記録に並びました。そこから少し足踏みはありましたが、2週間後に70勝に到達。結局1年目は91勝まで記録を伸ばしました。

しかし大型新人と騒がれた三浦騎手ですが、2年目はデビュー年を下回るまさかの78勝に終わりました。その後も毎年コンスタントに勝利数は挙げているものの、いつしか『ポスト武豊』と言われることもなくなってしまいました。実は三浦騎手が成績を落とした一因にある“問題発言”があったとされています」(競馬誌ライター)

元天才騎手の「身から出た錆」発言

 その発言というのが「明らかに武豊さんの方がいい馬に乗っていますし、正直武豊さんの馬に乗っていれば僕も9回中9回先着していた自信はあります」というもの。1年目の記録更新を目前に、武騎手に9回連続で先着された三浦騎手が質問された際、三浦騎手はそう発言してしまったという。

「18歳の若者が世界的スーパースターの記録を塗り替える。そんな偉業を前に三浦騎手も少し天狗になっていたのかもしれません。これが引き金になったかは分かりませんが、その後の成績は徐々に下降していきました」(同)

 この発言にはファンから大ブーイングが飛んだのは想像に難くない。さらに競馬サークル内からもバッシングがあったとか……。武豊騎手の記録を破ったことは歴史的な快挙だったとはいえ、それは自身の力だけではなく、周りの関係者のバックアップもあったからこそ。慢心とも受け取られかねない言葉だけに、“見えない敵”を増やしてしまったのかもしれない。

 そんなこともあってか伸び悩んだ三浦騎手が、デビュー年の91勝をようやく超えられたのも11年後。天才2世ともてはやされた騎手としてはかなりの遠回りをすることになった。

 あれから14年、三浦騎手はいまだJRAのG1は未勝利だ。あの発言がなければ、少しは違った騎手人生を歩んでいたかもしれない。

 先週土曜日には装鞍中に馬に足を踏まれて負傷。それ以降の全鞍が乗り替わりとなった。今週末には復帰できる見込みだが、今村騎手の活躍を刺激に14年前に自身が見せた本来の姿を思い出して欲しいものである。

(文=中川大河)

<著者プロフィール>
 競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。

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