JRAの賞金王・矢作芳人厩舎に「二刀流」のスター候補、ユニコーンライオンのダート出走は「新境地」か、はたまた「調教」か
小倉競馬場で10日に行われるプロキオンS(G3)。夏競馬恒例のダート重賞に、昨年の宝塚記念(G1)で2着に入ったユニコーンライオン(牡6歳、栗東・矢作芳人厩舎)が出走を表明した。
同馬は昨年5月の弥彦S(3勝クラス)を勝ってオープン入りを果たすと、6月の鳴尾記念(G3)では重賞初挑戦ながら後続に3馬身1/2差をつける快勝。さらに続戦した宝塚記念でもクロノジェネシスの2着と大健闘を見せ、一気に芝中距離路線の主力の一頭まで駆け上がった。
ところが、さらなる飛躍を期待された秋のG1シーズンを前に蟻洞(蹄に空洞ができる病気)を発症する痛恨のアクシデントが発生し、長期休養を余儀なくされてしまう。以降の大舞台を棒に振ったまま年を越し、その後も再始動の知らせはなかなか聞こえてこなかった。
そんな中、今年4月に僚馬・パンサラッサとともに凱旋門賞(仏G1)に登録する方針であることが報じられ、そこで矢作師から「夏頃の復帰予定」というコメントが見られた。凱旋門賞は「あくまで選択肢の一つ」としたうえで、「出走の可能性は低いが、欧州の馬場は合うと思う」と当時の陣営は語っていた。
ユニコーンライオンのダート出走は「新境地」か…
それから2カ月とちょっと。季節は夏に移り、ついにユニコーンライオンが帰ってくるのだが、1年ぶりのターフでどんな雄姿を見せてくれるのかと思いきや、復帰戦に選ばれたのはまさかのダートだった。
ダート戦の出走というと、2020年8月のTVh賞(3勝クラス)以来で約2年ぶり。ダートはこれまでのキャリア19戦のうち2回しか走っておらず、ともに3勝クラスのレースで結果は15着と11着。決して得意な条件とも思えないが……。
1年ぶりの復帰レースが実績皆無のダート戦。やはり「脚元の負担を考慮しているのでは」という見方が圧倒的に多く、ネットの掲示板やSNS上では一部のファンから「なぜダート」「調教代わりでしょ」といった声すら出ている。
その一方で、「何か勝算があるのでは?」という気持ちを完全に拭い去ることができないのは、やはり“矢作厩舎”という名門の大きな看板による力が大きい。
7月に入り、2022年もちょうど折り返し地点を過ぎたところだが、今年の矢作厩舎の地方・海外も含めた総賞金は全体トップの11億7000万円。2位が木村哲也厩舎の10億1000万円で、現時点で10億円を超えている調教師はこの2人しかいない。
これだけ稼ぐことができるのは、預かる馬の質の良さに加えて育成力、調整力が一流であることはもちろんだが、矢作厩舎の最大の強みと言える“馬の適性を見極める力”だろう。
今年はドバイワールドカップデーで3勝の固め打ちをしたことでも話題になったが、中でも大きな衝撃を与えたのがバスラットレオンのゴドルフィンマイル(G2)制覇だった。
3歳時にニュージーランドT(G2)を勝って以降、長きにわたり低迷期に入っていた芝のマイラーを海外のダート戦に起用。それまでダート戦は13着に敗れた武蔵野S(G3)の一度しか走ったことがなかったが、「ドバイの砂質なら合うと考えた」といきなり海外の重賞レースに出走させて勝たせたその手腕は大きな驚きを呼んだ。
馬の適性を見極めた上で、好勝負ができるレースをしっかりと選択できているからこそ、他を圧倒するような賞金を稼ぐことに成功している。そう考えると、ここに来てユニコーンライオンをダートに使う意味も不気味に思えてくる。
今回のレース選択の経緯については、調教に関わる福岡五大調教助手が「1年以上レース間隔が開いて、ハンデ戦は使えず、オープン特別になると負担重量を背負ってしまう」ため、復帰戦がプロキオンSになったと説明している。
その上で、「ようやく帰ってきてくれたという気持ち。もう爪の影響はない」と万全な状態であることを強調しつつ、「馬格があってパワーのある馬。まったく適性がないとは思っていない」と、勝算はゼロでもないといいたそうなニュアンス。本格化した今なら過去のダートの戦歴を覆す走りができるのではと期待を寄せた。
バスラットレオンや、芝とダートでG1を制したモズアスコットのように、矢作厩舎に新たな“二刀流”のスターが誕生するのか。ユニコーンライオンの挑戦から目が離せない。
(文=木場七也)
<著者プロフィール>
29歳・右投右打。
本業は野球関係ながら土日は9時から17時までグリーンチャンネル固定の競馬狂。
ヘニーヒューズ産駒で天下を獲ることを夢見て一口馬主にも挑戦中。