今村聖奈VS藤田菜七子「重賞初対決」をどう評価?

藤田菜七子騎手

 7月31日、新潟競馬場で行われたアイビスサマーダッシュ(G3)は、杉原誠人騎手の7番人気ビリーバー(牝7歳、美浦・石毛善彦厩舎)が優勝。石毛調教師と杉原騎手に加え、馬主のミルファーム、さらに同馬の父モンテロッソにとっても、嬉しいJRAの重賞初勝利となった。

 一方で、レース前に注目を集めていたあの2人は、残念ながら馬券に絡むことができなかった。JRAに所属する女性騎手として、史上初めて重賞で対決した藤田菜七子騎手と今村聖奈騎手の2人のことである。

 今年が騎手7年目の“先輩”藤田騎手はスティクス(牝4歳、栗東・武幸四郎厩舎)との初コンビで臨んだ。オープン昇級後は凡走続きのスティクス。このコースでは不利とされる内枠(2枠4番)に入り苦戦必至の情勢だったが、大健闘といえる5着。昨年の覇者オールアットワンスをハナ差抑えて掲示板を確保した。

今村聖奈騎手 撮影:Ruriko.I

 一方、重賞初騎乗となった先日のCBC賞(G3)で見事な逃げ切り勝ちを収めた今村騎手は珍名馬オヌシナニモノ(牡5歳、栗東・高橋義忠厩舎)と、こちらも初コンビ。7枠14番の好枠から“聖奈マジック”の再現が期待されたが、こちらは見せ場なく15着に敗れた。

今村聖奈VS藤田菜七子「重賞初対決」

「2人の直接対決を“痛み分け”と評したメディアもあったようですが、私は藤田騎手に軍配が上がった、と言いたいですね。単勝人気は枠順もあって、オヌシナニモノ(11番人気)がスティクス(13番人気)よりも上でしたが、結果は掲示板と2桁着順。人気を考えれば、藤田騎手の“完勝”だったと言ってもいいかもしれません」(競馬誌ライター)

 藤田騎手の内ラチ沿いをつくという選択も見事だった。スティクスを含めて1~2枠に入った4頭がインに固まる異例の展開で、藤田騎手は“イン集団”のハナを叩いた。レース後には本人も「腹をくくって内をついた」と、その胸の内を明かしている。

 結果的に4着までを“アウト集団”が占め、やはり外ラチ沿いを通った方が有利だった点は否めない。それでも、スティクスが同じくインを突いた実績上位のオールアットワンスやライオンボスに先着したことは素直に評価すべきだ。

 対して、今村騎手のオヌシナニモノは二の脚がつかず、後方よりの位置取り。外ラチにピッタリつけるという選択肢もある中、今村騎手は真っすぐ走らせることを優先したように映った。

「結果論ですが、2人のコース経験の差も大きかったのではないでしょうか。藤田騎手はローカルの中でも新潟が大の得意。これまで千直コースで10勝を挙げるなど経験も豊富です。

一方、ルーキー今村騎手はほぼ新潟経験がなく、千直コースもこれが2回目の騎乗でした。ポジション取りや仕掛けのタイミングなど直線独特のコツが必要なだけに、手探りの騎乗になってしまったのかもしれません」(同)

 重賞での初対決は先着を許したが、今村騎手はこの日の8Rで今年23勝目を挙げるなど着実に勝ち鞍を伸ばしている。同じ女性騎手として藤田騎手の影が薄くなっているとも言われているが、アイビスSDで見せた騎乗はそんな声に反発しているかのようだった。

 病欠からの“休み明け”ということもあって藤田騎手はアイビスSDがこの日、唯一の騎乗。まさに渾身の一鞍で、勝利には届かなかったが先輩の意地と存在感を見せつけた。

(文=中川大河)

<著者プロフィール>
 競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。

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