同じ重賞を「同一年」に「連覇」したウマ娘の珍事

 7日に札幌競馬場で開催されるダート重賞エルムS(G3)は、今年で27回目。この時期に行われる北海道シリーズ唯一のダート重賞として定着した感があるが、このレースの成り立ちがとてもややこしかったことをご存じだろうか。

 レースの創設自体は1996年の話。この年は路線別にレース整備が大幅に進んで、代表的なところだと、それまで3歳牝馬3冠が桜花賞・オークス・エリザベス女王杯だったのが、3歳牝馬限定G1の秋華賞を新設し、エリザベス女王杯を3歳以上牝馬に解放した年である。

 この年にダート路線の整備も進んだ。その一環としてこのエルムSや武蔵野S(G3)が新設されている。ただ、エルムSに関しては当初、開催場が函館で名称もシーサイドSと命名されていた。エルムSになったのは翌年の話で、開催場を函館から札幌に変更する際に名称も併せて変更された経緯がある。

 新設からたった1年で開催場が変わり、名称変更までなされたのはレアケースと言えるが、ここにはさらにややこしい裏事情があった。まず、札幌競馬場にはエルムSというレース自体が以前より存在しており、87年までは900万下(現在の2勝クラス)、翌年から96年まで1500万下(現在の3勝クラス、88~89年は1400万下)の条件戦として施行されていた。

 ここでもっとややこしいのは、札幌と開催時期が被らない函館ではシーサイドSというレースもまた存在していたこと。こちらは88年に900万下の条件戦で新設され、翌年に1400万下に格上げ。さらに90年からはオープン特別に昇格している。

 第1回エルムSとしてカウントされている「シーサイドS」はこのオープン特別が昇格した結果である。JRA的には札幌で元々開催されていた「条件戦」のエルムSは前身のレースとして認めておらず、同様に函館のシーサイドSも前身のレースとして認知していない。

同じ重賞を「同一年」に「連覇」したウマ娘

 現在のエルムSはこのようなレースを「ニコイチ」にした結果生まれたレースと言えるのだが、このような特殊な事情もあって条件戦の「エルムS」とオープン戦の「シーサイドS」の両方を同一年に勝っている馬が1頭だけいる。それが91年に両レースを勝ったカミノクレッセである。

 90年2月に4歳(現3歳)でデビューしたものの未勝利脱出まで4戦を要したため、クラシックにはまるで間に合わず、条件戦で走る一介の条件馬だった。5歳になってようやく条件戦を脱出できたのだが、その脱出に成功したレースが「エルムS」。オープン入りしてすぐに同じ札幌開催の重賞、札幌記念(当時G3)に出走。この時、カミノクレッセと同じく条件戦を脱出したばかりの後のグランプリホース、メジロパーマーの3着に入ってみせた。この後、札幌でオープン特別を勝ち、函館に転戦して連勝を飾ったのが「シーサイドS」だった。さらに秋の札幌で開催されていた地方交流重賞、ブリーダーズGCも制して重賞勝ち馬にまで出世した。

 ここまでたまに芝を使われる程度で、基本はダートが主戦場だったカミノクレッセは天皇賞・秋(G1)への出走を決める。このレースには天皇賞・春(G1)を制し、春秋連覇がかかったメジロマックイーンが出走。レジェンド・武豊騎手を背に「どう勝つか」だけが注目されていたレースだったが、2コーナーでまさかの大斜行。2着に6馬身差をつける圧勝劇だったが、G1史上初の1位入線後の降着処分がなされ、カミノクレッセは3着となった。

 6歳になって日経新春杯(G2)を勝ち、阪神大賞典(G2)を2着したあと天皇賞・春に挑戦。ここでは世紀の一戦と言われたメジロマックイーンとトウカイテイオーの対決に注目が集まった。が、トウカイテイオーは5着に敗れ、マックイーンが春連覇を飾るが、この2着にカミノクレッセが入る。

 さらに常識破りのローテーションが組まれ、天皇賞・春の半分の距離である安田記念(G1)にも出走。ここでも後に名マイラーとして名を馳せるヤマニンゼファーの2着となる。さらに宝塚記念(G1)にも出走。ここでは前年札幌記念で敗れたメジロパーマーに再び及ばなかったもののまたも2着に入った。

 92年当時に比べて路線ごとに重賞レースが整備された現在であるが、春の古馬G1である天皇賞・春、安田記念、宝塚記念の3レースですべて2着に入ったのはカミノクレッセだけである。

 こんな華々しい実績を残した馬が、エルムSという重賞に妙な縁があるというのもまた競馬の楽しみのひとつだろう。また、メジロマックイーンやメジロパーマーなどとの奇妙な縁が買われたのか、『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)内でもカミノクレッセがモデルとされる『カミヤクラシオン』というキャラクターで登場しているのも触れておく。

(文=ゴースト柴田)

<著者プロフィール>

 競馬歴30年超のアラフィフおやじ。自分の中では90年代で時間が止まっている
かのような名馬・怪物大好きな競馬懐古主義人間。ミスターシービーの菊花賞、
マティリアルのスプリングS、ヒシアマソンのクリスタルCなど絶対届かない位置から
の追い込みを見て未だに感激できるめでたい頭の持ち主。

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