JRA「未勝利トリオ」から辛うじて脱出! 勝てなくて当然の境遇も…今村聖奈の裏で新人騎手に過酷な現実

今村聖奈騎手

 7月3日に小倉競馬場で行われたCBC賞(G3)で重賞初騎乗初勝利を挙げた今村聖奈騎手。5日現在で通算36勝をマークしており、G1レースの騎乗条件となる「31勝の壁」も楽々とクリアした。

 同じ女性騎手である藤田菜七子騎手との競演にも注目が集まり、各メディアもその動向について逐一チェックしている状況だ。新人離れした思い切りの良さと確かな手腕も相まって、乗れる騎手としての評価も上昇。秋から始まるG1シーズンでも目を離せない存在だろう。

 その一方、今年デビューした10名の新人騎手だが、それぞれの成績に差が広がりつつあるのも確かだ。

 それぞれ通算36勝の今村騎手と20勝の角田大河騎手の活躍が顕著で、それ以外の新人騎手は二桁勝利にすら届いていないのだ。障害レースを主戦場としている小牧加矢太騎手は、条件が異なるものの、先述した2人とその他の騎手の間には、大きな溝が出来てしまっている。

「未勝利トリオ」に過酷な現実

 騎乗馬の確保に苦しみながら、何とか勝ち星を挙げた騎手もいるものの、騎乗機会に恵まれない騎手の成績は悲惨である。中でもいまだ勝ち星のなかった土田真翔騎手(美浦)、川端海翼騎手(栗東)、水沼元輝騎手(美浦)の苦戦は深刻だろう。

 かといって、彼らの不振を騎手として未熟だからという理由のみで片付けていい訳でもない。二強を形成する今村、角田河の両騎手の騎乗数は前者が344、後者が352と恵まれているだけでなく、8勝の西塚洸二、6勝の鷲頭虎太、3勝で並ぶ佐々木大輔と大久保友雅らの新人騎手は、100鞍を越える乗鞍を確保しているのだ。

 これに対し、未勝利の続いた土田、川端、水沼ら3名の騎手は、それぞれ52、59、60とわずか。300鞍以上の2強2人や100鞍以上騎乗した他の新人騎手に比べると、極端に騎乗機会が少なかった(※5日現在)。

 しかも、騎乗馬の人気の内訳も勝ち負けに程遠い人気薄ばかりでは、勝てなくても当然だったともいえる。

 では、なぜここまで同期で格差が出てしまったのか。

「美浦と栗東の違いも幾分あるとは思いますが、やはり大きいのはエージェントでしょうね。騎手の騎乗馬を用意するのが彼らの仕事ですから、60鞍にも満たないような騎手と300半ばの騎乗数だった上位2人とは天地の差といえます。

勿論、優勝劣敗の世界で結果を残さなければ、依頼数が激減するのは間違いないです。今村騎手や角田河騎手も結果を出すことで、依頼も増えるという相乗効果によるもの。かといって下位の騎手と、そこまで腕に差があるのかといわれると、そうとも言い切れません」(競馬記者)

 苦しい状況が続いているとはいえ、先述した未勝利トリオの1人・水沼騎手が、6日の大井競馬10RのヤングジョッキーズTR大井第2戦で初勝利を挙げるという明るいニュースもあった。

 水沼騎手はこれで3月のデビュー以来、JRAと地方を通じて64戦目の初白星。これには本人も「嬉しいですし、関係者、馬に感謝してもしきれません。これからは中央でも勝てるように頑張ります」と喜びのコメントを残した。この勝利をきっかけに2勝目といきたいところだ。

 乗れば乗るほど腕が上がると言われる騎手業だけに、騎乗機会そのものに恵まれなければ、上達するチャンスもそれに比例して減ってしまう。

 レースに騎乗することにより、道中の駆け引きや先輩騎手の技を盗む機会も増える。実戦で培う勝負勘は、追い切りや独学では身につかないはずだ。騎乗機会を得られなかった騎手が、事実上の開店休業のようになり、調教助手や他職に転じるケースも決して珍しいことではない。

 華やかに映る世界の裏で、スポットライトを浴びることなく、これまでもひっそりとムチを置いた騎手たちがいたことも事実だ。過酷な現実と背中合わせの騎手業ではあるが、何とか厳しい生存競争を生き残って欲しいものである。

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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