「引退宣言」の一流騎手が危機一髪!恩師に捧げる初勝利で最悪の事態を回避
かつてレジネッタやローズキングダムでG1を制した騎手が、ひっそりと引退の危機を迎えていた。その男の名は小牧太。重賞を通算85勝(中央34勝・地方51勝)しており、兵庫競馬所属時代には地方競馬の全国リーディングを2度獲得している名ジョッキーだ。
事の発端は今年5月、競馬ポータルサイト『netkeiba.com』で連載している自身のコラム「太論」内で「今年1勝もできんかったら引退するよ」と宣言してしまったことだった。本人は「1勝もしないっていうことはないと思っている」と語っていたものの、1勝も挙げられないまま、あっという間に今年残り4ヶ月を切っていた。
そんな小牧太騎手だが、4日に行われた小倉6R・3歳未勝利戦をワンダーブレット(セン3歳、栗東・笹田和秀厩舎)とのコンビでようやく勝利した。前回の勝利が昨年9月5日の小倉8Rだったため、ちょうど1年ぶりの白星が今年の初勝利となったわけである。実に117戦ぶりに勝利の美酒を味わった。
6日に更新された最新のコラムで、喜びと安堵の声を語ってくれた小牧太騎手。本人以上に同世代の横山典弘騎手や石橋守調教師が喜んでいたようで、横山典騎手は「検量室の外でわざわざ待っとってくれて、すごく喜んでくれ」、普段あまり喋らない石橋師までもが、「よかったー!」と声をかけたそう。7、8人の記者から囲み取材も受け、「重賞を勝った時みたいやった」と嬉しそうだった。
深いつながりを持つ、“亡き恩師”伊藤雄二元調教師に贈る勝利
ローズキングダムやクラレントなど橋口弘次郎元調教師のイメージが強い小牧太騎手だが、JRAで活躍できた背景に、先月17日に亡くなった伊藤雄二元調教師の存在が欠かせない。園田競馬からJRAに移籍する際に、一次試験の筆記試験が免除される条件となっていた「5年の間に2回の年間20勝」を達成する為に力を借り、JRA移籍後は伊藤雄厩舎で調教の手伝いをするほどだった。伊藤雄元調教師にとって最後のレースとなった2007年2月25日の中山11R・中山記念(G2)では、小牧太騎手にその鞍上を託していた(結果はメイショウオウテで12着)。騎乗回数自体は多くなかったものの、それだけの深い絆があったのである。
また、1年ぶりの勝利をもたらしてくれたワンダーブレットは、伊藤雄元調教師の娘婿で小牧太騎手のゴルフ仲間・飲み仲間でもある笹田厩舎の管理馬。先週終了時点で所属馬への総騎乗回数は他の騎手を差し置き最多の229回を数え、笹田厩舎の主戦騎手といっても過言では無い。その親密な関係性からも、この勝利には運命を感じずにはいられない。伊藤雄元調教師も天国からきっと喜んでくれているだろう。
紆余曲折あったが、もう一度輝きを取り戻せるか
若手の台頭や怪我・年齢の影響など色々なことがあり、騎乗回数は2009年の815回をピークに減り続け、昨年は143回の騎乗にとどまった(今年も先週終了時点でわずか72回)。最後の重賞勝ちは2015年5月にヒットザターゲットで勝利した目黒記念(G2)で、実に7年以上も遠ざかっている。
苦しい時期を過ごしているが、同世代の横山典騎手や武豊騎手の活躍を目の当たりにしてまだまだ老け込むわけにはいかないところ。息子の小牧加矢太騎手が“障害界のプリンス”として今年デビューを果たしたが、父の小牧太騎手にももう一花咲かせてほしいと思っているファンも多いはずだ。