JRAが読み違えた馬主の気持ち!? 「弱い馬は引退せよ」が実現しなかった結果…降級制度の廃止とホープフルSのG1昇格から5年
16日、阪神競馬場ではもみじS(OP、芝1400m)が開催される。
1980年代にもみじ賞として創設されて以来、中断期間も交えながら長く2歳オープン競走に名を連ねてきたもみじS。古くはサッカーボーイ、ビワハヤヒデ、フジキセキといったビッグネームが勝ち馬に名を連ねているが、最近はかつてのような存在感が失われているような印象を受ける。
過去5年の勝ち馬では2017年のダノンスマッシュの存在が光るが、本格的に活躍し始めたのは3歳の秋になってから。ちなみに昨年の勝ち馬カジュフェイスはその後苦戦が続き、今月の2勝クラスでも9着に惨敗している。
今年も7頭立て、その上2頭が未勝利馬という寂しいメンバー構成になった。登録段階で9頭しかいなかったのだから、この結果も仕方ない。だが、2014年の開催再開以降、出走馬が10頭を超えたのは2019年だけ。それも11頭立てとフルゲートには程遠い頭数だった。
その一方で、古馬オープン太秦Sには大量の登録馬が…
その一方で、もみじSと同じオープンの太秦Sには47頭という大量の登録馬が集まった。最終的にはフルゲートの16頭が出走枠に滑り込み、それを超える17頭が除外の憂き目にあっている。
全体の頭数に差があるとはいえ同じオープンでも2歳戦のもみじSと、古馬オープンの太秦Sでこれだけの差が生まれているのは、ある意味、異様な光景だ。
だが、現場の記者の話によると、古馬オープンの除外ラッシュは太秦Sに限った話ではないという。
「日曜日(16日)の信越S(L)でも43頭が登録して、最終的に19頭が除外になっています。それだけでなく、先週の3日間開催でも大阪スポーツ杯(OP)が14頭、オパールS(L)が19頭、グリーンチャンネルC(L)に至っては29頭もの除外が発生しました。
今、古馬のオープンは出走に漕ぎつけるだけでも大変ですよ。名前は出せませんが、ある調教師も『異常事態』と嘆いていました。特に下級条件(のレースの数)が多いダートや短距離は悲惨の一言に尽きます」(競馬記者)
記者曰く、このような現状を生んでしまった原因の1つが降級制度の廃止にあるという。
JRAが降級制度の廃止を発表したのが2017年。実施されたのは2019年からだ。降級制度が廃止されるということは、一度クラスが上がってしまえば落ちることがない。そうなると、一番上のオープンクラスの馬が増えるのは言うまでもないだろう。
つまり実施から、わずか4年で現在のような“必然の”除外ラッシュが発生しているわけだが、JRAはこの「未来」が見えていなかったのだろうか。
「降級制度廃止の発表当初、JRAの狙いの1つが競走馬の循環を早めることでした。簡単に言えば、クラスが上がって周りのメンバーのレベルが上がり、頭打ちになった馬(賞金を稼ぐことが難しくなった馬)は、降級して再び活躍するチャンスがなくなった以上、引退するしかないというものです。
実際、競走馬は所持しているだけで毎月数十万円というお金がかかりますから、稼げなくなった馬をいつまでも所持している経済的なメリットはあまりありません。なので一見、妥当な理由にも思えます。
ただ、『オープン馬』は所持しているだけで、たとえ勝てなくても馬主にとっては嬉しいものですし、ステータスにもなります。
特に個人馬主にとっては、所有馬が限られている中でのオープン馬は貴重な存在。ここまで活躍してくれた分の愛着もありますし、少々勝てないくらいで簡単に引退とは考えない方も多いようですね。JRAはこの辺りの馬主さんの気持ちを読み違えてしまったのかもしれません」(同)
そんな古馬オープンの除外ラッシュがある一方、降級制度の廃止の廃止と並行してJRAが行ってきたのが2歳戦の充実だという。実際にJRAが降級制度の廃止を発表した2017年に、2歳戦3つ目のG1として産声を上げたのがホープフルS(G1)だった。
ここ10年を振り返ってもオープンだった京都2歳SをG3に、G3だった東京スポーツ杯2歳SをG2にそれぞれ格上げ、サウジアラビアロイヤルC、アルテミスSといった新たなG3の創設など、JRAが近年2歳戦の拡張に力を入れていることは明らかだ。
だが、逆に充実させすぎた結果、今週のもみじSのような出走頭数が集まらないレースが増えてしまっている。これには関係者からも悲鳴が上がっているそうだ。
「先週のサウジアラビアRCも9頭立て。昨年は7頭しか出走しませんでしたからね。少数精鋭といえば聞こえはいいですが、単純に頭数が少ないレースは馬券も売れにくく、JRAにとっては本末転倒になってしまっています。
その一方で、古馬のオープンがあの惨状ですから、現場からは『(JRAの)職員は何を考えているんだ』という声もチラホラ……。馬主さんから『また除外か』『なんで出れないんだ!?』といった文句を言われている調教師もいるそうで、関係がギクシャクしてしまうこともあるそうです。
とはいえ、1日12レースしか開催できない決まりですから、増えすぎた2歳オープンを減らして、その分、古馬オープンを増やすしかないと思うのですが……」(同)
そんな現場の声が届いたのか、現在JRAはオープン競走の出走に関してのルールを見直す検討をしているという。果たして状況は改善されるのか、理想はすべての馬が出たいレースに出られる環境に尽きるが……。