天皇賞・秋ジャックドールに不穏な空気…陣営が漏らした「物足りない」の意味
今年の天皇賞・秋(G1)にはジオグリフ、イクイノックス、ダノンベルーガといった春のクラシック戦線を沸かせた3歳馬たちが名を連ねたが、それらを迎え撃つ古馬の1頭がジャックドール(牡4歳、栗東・藤岡健一厩舎)である。
昨秋の1勝クラス突破を皮切りに、破竹の5連勝で今春の金鯱賞(G2)を制覇し、一気に重賞ウィナーにまで上り詰めた。G1初挑戦となった大阪杯(G1)では5着に敗れたものの、秋からコンスタントに出走を重ねた末に、中2週で挑んだことを踏まえれば、力の片鱗を十分に感じられる内容であった。
大目標となる天皇賞・秋制覇に向け、しっかりと休養を挟んだ上で、始動戦として挑んだ札幌記念(G2)を快勝。そこから中9週と程よく間隔の空いたローテーション、舞台も過去に2勝を挙げている東京2000mとあって、大阪杯と比較しても条件が好転するといえるだろう。
戦績や臨戦過程にはこれといって非の打ちどころがなく、この舞台で上位人気の一角を担うことにも納得がいく。ベストともいえる条件で、G1の舞台でどこまで戦えるのか、その走りに期待を寄せているファンも多いはずだ。
だが26日に行われた共同会見を見ると、ジャックドールのコンディションについて、陣営から少々気になるコメントが出されてもいた。
ジャックドールに不穏な空気…
長らくジャックドールの主戦を務め、天皇賞・秋でも騎乗する藤岡佑介騎手は、1週前追い切りについて「バランスが前に突っ込んでいる感じで折り合いに苦労した。時計は出ているが乗っている体感としてはあまり…という動きだった」と不安を漏らした。
1週前追い切りは栗東のウッドコースで6ハロン79.7-11.5秒と抜群の時計を叩き出し、併せた古馬オープン馬のノルカソルカにも先着している。これを見る限りでは決して悪くない内容に思えるが、鞍上は目に見えないところで物足りなさがあったのかもしれない。
当週追い切り後の感触については「先週に比べれば良いバランスで走れていた。しまいの反応は先週より良化した」と一定の手応えを感じたようだが、今度はジャックドールを管理する藤岡師から「全体の時計からいうと物足りない部分もある」という不穏なコメントが飛び出したのだから穏やかではない。
実は不思議なことに、前走で共に札幌記念を戦ったパンサラッサも1週追い切りは満足のいく内容ではなかったようだ。管理する矢作師は共同会見にて「まだまだ物足りないと感じた」と1週前追い切り時点での感触を語っている。
2頭が出走した札幌記念は、雨の影響が残るタフな洋芝の中で、レースの上がり3ハロンが37秒も要したハードな戦いだったこともまた事実。それでいて最後の直線でジャックドールはパンサラッサとの壮絶な叩き合いを見せており、本番さながらのデッドヒートを演じていたのだ。
また、藤岡師はジャックドールについて「元々疲れが溜まりやすい体質」と語っており、大阪杯についても「(中2週で)馬に可哀そうなことをした」と敗因の1つに体質面の弱さを挙げている。札幌記念からは中9週と十分な間隔が空いているものの、前走のレース内容を鑑みれば目に見えないダメージが残っている可能性もあるだろう。
思い返せば今秋のG1レースで1番人気を背負いながら惨敗したメイケイエール、ガイアフォースも前哨戦を快勝しながら、本番では能力を発揮できないまま敗れた印象が強い。
メイケイエールはスプリンターズS(G1)の前哨戦として臨んだセントウルS(G2)でレコードをマークする快勝。ガイアフォースは菊花賞(G1)のトライアルであるセントライト記念(G2)で、関東への輸送を挟んだ上でアスクビクターモアとの激しいマッチレースを勝利している。
2頭ともに前哨戦では“激走”ともいえる高いパフォーマンスを見せているが、レース内容を考えれば、馬体への負担も小さくなかったはずである。本番で2頭が共に敗れたことは、前哨戦の激走と無関係ではなさそうだ。
もしかしたらジャックドールについても、札幌記念の疲れが陣営の想像以上に残っていた結果、それが追い切りでの違和感に繋がっているのかもしれない。果たしてこの不穏な空気は杞憂に終わるのか、それとも懸念が現実のものとなるのか。ジャックドールの状態面については、当日のパドックでも注視したいところである。