福永祐一「選択ミス」経験も貫き通した信念…二冠馬を選ばなかった裏事情

福永祐一騎手 撮影:Ruriko.I

 18日、阪神競馬場で行われるのは2歳マイル王決定戦の朝日杯FS(G1)。ホープフルSがG1に格上げされるまでは2歳牡馬の最強を決める一戦に位置付けられていた。

 現在は阪神外回りコースの芝1600mで行われているが、それ以前はトリッキーといわれる中山の1600mが舞台だった。

 まだ中山で施行されていた20年前の2002年。キャリア9戦目で2歳王者に輝いたのが瀬戸口勉厩舎(当時)に所属していたエイシンチャンプという馬である。

 デビューしたのは6月阪神のダート1200m戦だった。福永祐一騎手を背に1番人気の支持を受けたが2着に敗れ、岩田康誠騎手に乗り替わった折り返しの新馬戦でも2着と連敗を喫した。

 ダート1400mに距離を延ばした3戦目でようやく勝ち上がると、その後は芝路線に変更。オープンクラスを中心に上位を賑わすもなかなか勝つことができなかった。ようやく2勝目を挙げたのは武幸四郎騎手(現調教師)とのコンビで臨んだ11月の京都2歳S(OP)。後の菊花賞馬ザッツザプレンティとの追い比べを制して、この時点で8戦2勝としたエイシンチャンプは秋競馬だけで6戦を消化するハードなローテーションだったが、陣営は2歳王者の大一番への出走を決断する。

 この年の朝日杯FSで人気を集めたのは田中勝春騎手とコンビを組んだサクラプレジデント。こちらは新馬、札幌2歳S(G3)を連勝。無傷の3連勝を懸けて駒を進めてきた。

 一方のエイシンチャンプは前走で勝利したとはいえ、6度の敗戦を嫌われてか8番人気という低評価。鞍上には4度目コンビとなる福永騎手が戻っていた。

 レースは、サクラプレジデントがスタートで大きく出遅れる波乱の展開。人気の一角サイレントディールが前半600mを34秒3のハイラップで逃げる中、エイシンチャンプと福永騎手は好位3番手の内でしっかりと折り合って脚を溜めた。

 勝負所の4角手前で鞍上の手が動き始めると、エイシンチャンプはいち早く抜け出して粘り込みを図る。直線では先行勢が崩れたハイペースを味方に後方からサクラプレジデントとテイエムリキサンの2頭が追い込んできたが、最後は「クビ+クビ」の接戦を制してエイシンチャンプが2歳王者の座に就いた。

 ゴール板を過ぎて福永騎手は勝利を確信すると、左手でガッツポーズ。直後に掲示板に赤く映し出されたのは「レコード」の文字だった。

 1分33秒5の勝ち時計は、1997年にグラスワンダーがマークしたレースレコードを0秒1塗り替えるもの。出遅れたとはいえこの時点で世代トップクラスの評価を得ていたサクラプレジデントに競り勝ったことで、ようやくエイシンチャンプにもクラシック候補という代名詞が与えられた。

 年が明けてこのコンビは当時のクラシック王道路線、弥生賞(G2)から始動。5着までが0秒1差以内の大激戦となったレースを辛うじて勝利すると、皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)にもこのコンビで臨んだ。

 実は春のクラシックを迎えるにあたって、福永騎手は苦渋の選択を迫られていたという。

「福永騎手は同じ瀬戸口厩舎のネオユニヴァースにも騎乗していたため、クラシックで2頭のどちらに騎乗するのか選択肢があったといいます」(競馬誌ライター)

 福永騎手は当時の心境を3年前に行われた『Number Web』の取材でこう明かしている。

「選択ミス」経験も貫き通した信念…

「先にGIを勝ったというのもあって、僕はエイシンチャンプを選び……。結果的にネオユニヴァースがダービー馬となった」「僕はエイシンチャンプで朝日杯を勝って、弥生賞も勝って、皐月賞も3着。ネオユニヴァースはミルコ(・デムーロ)で皐月賞を勝ったけど、はたしてどっちに乗るのが筋なんだ、と。僕はエイシンチャンプに続けて乗るのが筋だと思ったし、その選択に、お二方(瀬戸口師と師匠の北橋修二師)は何もおっしゃらなかった」

 もしあのとき、福永騎手がネオユニヴァースに騎乗していたとしても、同馬が二冠馬に輝いていたかは分からない。しかし、結果的にネオユニヴァースを選ぶべきだったかもしれない。

 それでも福永騎手は勝つチャンスの大小ではなく、「筋を通す選択が、自分が進むべき道」と、人間、そして馬に対し、筋を通すことを優先した。

 後には、長らく勝てなかったダービーを3勝した福永騎手。エイシンチャンプで筋を通した義理堅い男だからこそ、それだけのチャンスが巡ってきたのだろう。

 騎手としてまだ一線級で活躍中の福永騎手。今月上旬には調教師試験に合格していたことが分かり、騎手人生も残り2か月半となった。様々な苦難を乗り越えてきた彼なら第二の競馬人生でも間違いなく成功を収めてくれるだろう。

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