【再掲】超新星ベラジオオペラを巡る「絆」のサクセスストーリー。JRA未勝利馬主が大勝負に出た理由、そして運命の出会い【特別インタビュー】
※本記は、2023年4月14日に掲載したインタビューの再掲になります。
「――えっ、ベラジオ?」
先月19日、皐月賞(G1)の最重要トライアルの1つスプリングS(G2)をベラジオオペラ(牡3歳、栗東・上村洋行厩舎)という馬が1馬身1/4差で快勝した。
レース後、勝ち馬の名がトレンド入りすることは昨今の競馬人気を思えばお馴染みの光景だが、それと同時にSNSで話題を集めたのが本馬の冠名「ベラジオ」だった。
パチンコ好きの競馬ファンなら、すぐにピンときたかもしれない。関西出身の方なら、なおさらだろう。「ベラジオ」とは関西方面を中心に展開するパチンコチェーン店であり、オーナーは前社長である。
しかし、SNS上でも「ベラジオって、あのベラジオか!」「パチンコのベラジオと関係あるのかな?」という声もあったように、“あの”ベラジオが馬主業を行っていたことを知っていたファンは少数派だった。
さらにベラジオオペラを管理する上村洋行調教師も、開業5年目でこれが重賞初制覇。スリープレスナイトやサイレンススズカとのコンビなど騎手時代を知っているファンでも、調教師としてどの程度の実力があるのかまで知っているファンはあまりいないだろう。
だが、実は上村厩舎は11日現在リーディング3位とここに来て絶好調だ。
そういった意味でベラジオオペラは、突如今年のクラシック戦線に現れた「謎の存在」なのである。ましてや本馬はここまで無敗。前回、スプリングSを勝って3戦3勝で皐月賞へ駒を進めたのは、あのキタサンブラックである。
そこでGJ編集部はベラジオオペラの徹底調査を敢行。関係者の話を頼りに調べれば調べるほど、その背景に熱い「絆の物語」があることがわかった。
「上村先生。一番、ホンマに欲しいのはどれですか――?」
これは浪花節を絵に描いたような男たちのサクセスストーリーなのかもしれない。その中心にいるベラジオコーポレーション株式会社の森川社長を直撃した。(4月6日収録)
――本日はよろしくお願いいたします。まずはベラジオソノダラブの菊水賞制覇、おめでとうございます!
森川社長:ありがとうございます! 園田はウチの地元なんで、めちゃくちゃ嬉しいです!
――なにせ、ベラジオソノダラブ(ベラジオ園田LOVE)ですからね!(笑)。兵庫のクラシック第1戦を幸先良く制して、次は中央のクラシック第1戦・皐月賞。ベラジオオペラが、いよいよG1の舞台に立つことになりました。
森川社長:まさか、G1に出られるとは思わなかったですね。もともとウチは地元貢献の意味もあって園田で馬を持ってたんですけど、やっぱり馬主をやる以上は「夢」を見たくて、毎年中央(JRA)で1頭だけ持つことにしてます。
でも、これまでの2頭はまったくダメで……。大差で負けることも何回もあって「やっぱり中央はレベルが違うな」と。結局、園田に移籍させたんですけど、だからベラジオオペラが新馬戦を勝ってくれるまで、中央では未勝利やったんですよ。
――中央競馬は競馬界の中では、エリートたちの戦いですからね。馬主さんから「1つ勝つだけでも大変」というお話を伺ったことがあります。
森川社長:そうなんですよ。馬主業も言ってしまえば会社の1つの事業ですから、最初の頃は社員から反対する声もありました。競馬を全然知らない人からしたら「なんで競走馬に投資してるんですか?」って。
――よく馬主業は道楽と言われます。
森川社長:だから「中央で1勝」は目標でしたし、新馬戦を勝っただけでも破格の喜びでした。僕の中では、もうG1勝ったくらいの喜びでした(笑)。
――私も『ベラジオちゃんねる』の方で、拝見させていただきました。レースを勝ったまではよかったんですけど、ウイナーズサークルへの行き方がわからなくて走り回られてましたね(笑)。
森川社長:まさか、勝てるなんて思わないじゃないですか(笑)。相手には何億円もする馬もいましたからね。上村先生(上村調教師)からも「先々で走ってくる馬ですから、負けても凹まないでくださいね」って言われてましたし「無事にさえ帰ってきてくれたら」と思ってたんですけどね。
先月の会社の会合でベラジオオペラの活躍を報告した時、感動してる社員もいました。今では社員も一丸になって応援してくれてますね。
――そんな社の期待も一身に背負う存在になったベラジオオペラですが、まずは森川社長との出会いから教えていただけますか?
森川社長:ベラジオソノダラブとベラジオオペラは、2頭とも去年の千葉サラブレッドセールで購入した馬なんですよ。以前はサマーセールとか、HBAトレーニングセールとかにオーナーと行ってたんですけど、上村先生が「どうしてもそれ(千葉サラブレッドセール)がいい」と。
去年はまだコロナ禍でオンライン開催だったんで携帯(スマートフォン)で参加したんですけど、千葉サラっていったら社台ファームの馬じゃないですか(上場66頭中56頭は社台ファームが販売申込者)。桁が1つ違うというか、やっぱりお高いなと……。
――社台ファームというと競馬界の“高級ブランド”です。
森川社長:それで上村先生にオススメされてたベラジオソノダラブ(ヴェイルドクリスの2020)を「とりあえず練習がてらに参加してみようか」と。父も産駒が出始めたばっかりのロゴタイプでしたし、母方に(重賞3勝の)ビハインドザマスクがいて、結構いい血統だったんで「ほな、試しにやってみよか」ってやってみたんですけど、意外にあっさり落とせて……。
――ベラジオソノダラブの今の活躍を思えば、凄くラッキーでしたね。
森川社長:オンラインでやってるっていうのもあると思うんですけど、最初の方やったんで皆さん慎重になってたんかもしれません。でも、その後は参加してみても、なかなか落とせなくて……社台ファームの馬ですし、調教も動いてる馬が多かったんで、やっぱり高いなと。
――兵庫クラシックの第1戦となる菊水賞の1着賞金が1000万円で、皐月賞の1着賞金が2億円。レース賞金を見ても、中央で走るような馬はどうしても高額になってしまいますよね。
森川社長:実は上村先生のオススメの中で特に狙ってた馬がいて。オーナーとも「これは、(落札できるまで)行ききろう」という話になったんですよ。でも、オーナーが携帯で(入札ボタンを)押してたんですけど、いきなり画面(タッチパネル)が反応せえへんようなって……。
「あれ、足されへん!」「なんでや、なんでや」「オレの指がカサカサやからアカンのか!」って……。それで結局、負けてしまったんですよ。「あちゃ~」ってなってね(笑)。「このままやと中央用の馬、1頭も落とされへんぞ!」って。
――まさに「あちゃ~」ですね……(笑)。
森川社長:それで上村先生に「ホンマに欲しいのどれですか?」って聞いたんですよ。何頭かオススメしてくれましたけど、上村先生がこの千葉サラがいいって言ったんやから「『本命』がいるんでしょ?」って。
それで「上村先生。一番、ホンマに欲しいのはどれですか?」って聞いた時に挙がったのが、ベラジオオペラ(エアルーティーンの2020)やったんですよ。
――上村調教師、凄いですね!
森川社長:凄い人ですよ。後で聞いたんですけど、なんで先生が最初から強調して言わなかったのかは、そもそも単純にどれが走るか確信がないっていうこともありますけど、その馬が一番高かったんですよ、オススメの中で。
――オーナーを気遣って、遠慮されてたんですね。確かにベラジオオペラは千葉サラブレッドセールの中でも、かなりの良血馬でした。
森川社長:父がロードカナロアっていうのもありますし、母方にエアデジャヴー(オークス2着)がいて、その兄弟にエアメサイア(秋華賞)、エアシャカール(皐月賞・菊花賞)がいますからね。たまたま母(エアルーティーン)の産駒に活躍馬がいなかったんですけど、それでも気ぃ遣って遠慮されたんやと思います。
――高額な馬になればなるほど、一般的には走る可能性が高いと言われていますけど、同時に馬主さんが背負うリスクも大きくなります。
森川社長:でも、その気持ちが嬉しくてね。上村先生はウチが中央で馬主をやり始めた時から、ずっと預かってくれて。全然アカン中でも、あれやこれやって手を尽くしてくれるんですよ。幸い、ベラジオオペラは(セリ順が)最後の方やったんでオーナーと相談して「ちょっと、本気で行くとこまで行こうや!」という話になってね。ベラジオオペラは上村先生の念願に初めて応えて買った馬です。
――めちゃくちゃ良い話じゃないですか! 上村調教師の思いに応えたいとはいえ、ベラジオさんからすれば勇気のいる大勝負だったと思いますが、よく勝負に出られましたね!
森川社長:入札の時、仲間内で食事をしていて、僕とオーナーの他にまったく競馬のことを知らない2人がいたんですけどドン引いてましたね……(笑)。
――付き添ったお2人からすれば「冷静になって!」と言いたくもなるでしょうね(笑)。
森川社長:ベラジオオペラはウチにとったら今までで一番高い馬なんですけど、有名な馬主さんも参加されてたんで「もし、競ってきたらどないしょ……?」ってビビってました(笑)。無事に落札できてホッとしました。
――そして大勝負して手に入れたベラジオオペラが、3戦3勝の無敗のまま皐月賞に挑むことになりました。注目の鞍上は田辺裕信騎手に決まりましたね。
森川社長:横山武史騎手に乗ってもらっていたんですけど、先約があったみたいで(ソールオリエンスに騎乗)。それで上村先生が田辺騎手を指名されました。
――田辺騎手は中山が得意なイメージがあります。この皐月賞でも、過去5年で4度の掲示板と得意にしていますね。
森川社長:器用なジョッキーですよね。去年の菊花賞(G1)も上手いなあって思ってました。ベラジオオペラは変な癖とかもないらしくて、上村先生も「誰が乗っても扱いやすい馬」って言ってくれてますし、操縦性がめちゃくちゃ良いらしいです。それも田辺騎手にあってるんちゃうかなって思うんですよ。
――これまで様々なペースや競馬で結果を残しているのは、ベラジオオペラの強みですよね。混戦で強さを見せていますし、大混戦になりそうな今回の皐月賞でも期待が膨らみます。
ベラジオオペラに注目しているファンも多いと思いますので、最後にメッセージをお願いできますか?
森川社長:まずは中央で1つ勝ちたいと思って、気が付いたらこんな大きなレースまで来てしまった印象です。上村先生、(外厩の)チャンピオンズヒルズの大西厩舎長には、改めて感謝したいですね。ただ、お2人とも「この馬は、まだ先々に良くなるから」って言うてはる通り、ベラジオオペラはまだまだこれからの馬やと思ってます。
阪神、東京、中山と3つの競馬場を3連勝してきたこともありますし、心技体はメンバーの中でも上位じゃないかなと期待してます。僕自身が(3代母)エアデジャヴーが走ってた頃に競馬にハマったんで、血統的な思い入れもめちゃくちゃあります。皆さんも期待して応援してくれたら嬉しいです。
『ベラジオちゃんねる』の方で裏話とかもやってるんで、また見てください!
(リンク:https://www.youtube.com/channel/UCZjhhFpWhxAX5uGOmqqKqrg)
――ありがとうございました!
(インタビュー・構成=浅井宗次郎)
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