交通事故で乗り合わせたすべての馬が死亡……度重なる危機を奇跡的に乗り越え、最後は年度代表馬に。人知を超えた「奇跡の馬」サンデーサイレンス【後編】

※画像:JBISサーチ公式サイトより

 自らが設立したニュ-ヨーク競馬協会の名誉会長を務め、日本でもAJCC(G2)で知られるアメリカジョッキークラブの会長としても20年。没後はG1レース名にその名を刻んだ(日本では安田記念や有馬記念が該当する)アメリカ競馬の歴史的オーナーブリーダー、オグデン・フィップス。

 そんな彼の「晩年の最高傑作」と言われ、数々の名馬を輩出している大種牡馬アリダーを父に持ち、母や兄弟も当然ながらG1馬……まさに名門の一族出身のイージーゴア

 片や、生涯31戦を要してようやくG1を勝ったヘイローを父に持ち、母はG2を勝つのがやっと……曲がった脚やアンバランスな馬体から「あんなひどい仔馬は見たことがない」と罵られて育ったサンデーサイレンス

 1989年、そんな生まれも育ちも何もかも対象的な2頭が、アメリカのクラシックの最高峰ケンタッキーダービー(G1)で初めて相見えることとなった。

 1番人気は、当然ながらイージーゴア。それも単勝1.8倍の断トツだ。昨年の最優秀2歳馬で、ここまですべて1番人気でG1を3勝。「再来」と比較される三冠馬セクレタリアトは、馬でありながら20世紀のトップアスリートの上位にもランクされた規格外の名馬。戦前は勝ち負けではなく「どう勝つのか」が問われている一戦とさえ言われていた。

 対するサンデーサイレンスは、イージーゴアに次ぐ2番人気。しかし、単勝4.1倍と戦前の評価は歴然としていた。だが、前日の大雨で馬場は最悪のコンディションにあったことがサンデーサイレンスに大きく味方する。

 レースはサンデーサイレンスが先行し、イージーゴアが後方に控える形で始まる。迎えた4コーナー手前でサンデーサイレンスが好位、イージーゴアもその直後に迫った。そのまま直線に入ると、サンデーサイレンスが先に抜け出し後続を完封。戦前の評価を覆し、クラシック第一弾はサンデーサイレンスに軍配が上がった。

 ただ、それでも世間は2着に敗れたイージーゴアが「足をすくわれた」という評価だった。イージーゴアへの信頼は何ら変わることなく、2戦目のプリークネスS(G1)も本馬が単勝1.6倍の断トツ人気。サンデーサイレンスは単勝3.1倍で、またも2番人気だった。

 レースは出し抜けを食らった前回の二の舞を踏むまいと、勝負所を前にイージーゴアが果敢に先頭に立つ。それを追いかけたサンデーサイレンスが並びかけたところが、最後の直線の入り口だった。

 そこからサンデーサイレンスとイージーゴアの、アメリカ競馬史上に残る叩き合いが続く。完全な一騎打ちとなり、お互いがまったく譲らないままゴール。ハナ差だけ前にいたのがサンデーサイレンスだった。後続には5馬身以上の差がついていた。

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