【特別連載②】JRA安藤勝己を生んだ笠松競馬の闇。「騎手で食べていけるのは上位5人だけ」売上10年で約3倍増の絶頂期も「本当に」儲かっているのは……
地方競馬はバブル経済崩壊後、中津(大分県)、益田(島根県)、足利・高崎・宇都宮の北関東3場、三条(新潟県)、上山(山形県)、荒尾(熊本県)、福山(広島県)と閉鎖が相次いだ氷河期を乗り切り、現在では14の主催者が全国15か所の競馬場で平地競走とばんえい競走を開催している。
売上は軒並みレコード更新と上げ潮、我が世の春を謳歌している。しかし、これはあくまで売上増の数字を見る限りでのことである。
氷河期には全国での年間売上3314億円(2011年)となり、バブル経済崩壊直前の1991年のピーク時の3分の1にまで落ち込んだ。しかし、日本中央競馬会(JRA)のPATでも馬券購入ができるようになったほか、オッズパーク、楽天競馬などネット投票が可能となったこと、また特に昨年からのコロナ禍による巣ごもりがさらに売上を押し上げ、各地の主催者が続々と売り上げ記録を達成。2020年には9100億円余と1991年の9862億円に迫る数字をたたき出し、今年度は新記録を達成する勢いにある。
しかし、売上増がそのまま調教師、騎手、厩務員ら競馬を実際に支える“エッセンシャルワーカー”が恩恵に浴することはできていないようだ。
「馬券のネット販売に必要な手数料がべらぼうに高い。的中しなかった場合も購入額に応じてポイントを付与してますから原資も必要だし、ネット企業もインターネット環境を立ち上げ維持していく費用も必要ですから、少なからぬ委託販売料が必要になってくるのは仕方ないのかもしれませんが……」
笠松競馬関係者は売上増がそのままレースの賞金、手当に直結しない現状をこう説明する。売上が同じ1億円でも、地方競馬が自前の発売施設で売ると粗利は2200万円程度だが、JRAのネット投票経由なら手数料を10%として粗利は1200万円ほどに留まる。
ネット業者はポイント付与の原資、インターネット環境の立ち上げ、維持などに費用がかさむことから手数料は12~14%になると見られ、主催者が売上増の恩恵を享受できる比率はJRAネット投票経由よりも更に少なくなるという。
笠松競馬に隣接する名古屋競馬。愛知県競馬組合改革委員会資料によれば【インターネット手数料の1%削減】の削減が謳われ、手数料を1%削減で年間約5100万円削減できるという。この数字からも安くない手数料は推測できよう。
その一方で、ネット企業は空前の大成長を遂げている。オッズパークの純利益の推移を見れば2018年:25億6300万円→2019年:35億2100万円→2020年:56億8400万円と驚異的な伸び率である。
笠松競馬もその上げ潮の恩恵に与かってはいる。しかし、最も存続が危ぶまれながら南国の強みを生かして通年ナイター競馬開催で危機を脱した高知競馬が今や入厩させることが難しいほどの盛況であるのと対照的に、売上は増えても調教師、騎手、厩務員ら競馬を実際に支える現場の関係者は売り上げ増の恩恵に浴することはできていない。