武豊は手首を握るだけで……新人騎手だけじゃない!? 過去には引退も……ジョッキーの過酷な「体重管理」事情に迫る!!
朝イチの調教開始時刻は、春や秋なら6時から、夏場なら5時からスタート。攻め馬の頭数が少ない騎手は午前7時には「お役御免」となり、残りの1日のスケジュールは真っ白……ということもある。
毎日のように結構な空き時間があれば、それだけ誘惑が多くなるはず。使えるお金も一般人よりも多いわけで、「アレも食べたい、コレも食べたい」となれば、誘惑に負けない強いメンタルは必須条件。意思の強さが試される“自己管理能力”が問われることになる。
どんなに軽い馬具でも、最低1.5キロほどあることから、騎手たちは自身の体重を50キロ前後にキープしなければならない。
空き時間にはサウナでの「汗取り」を日課とする騎手もいる。弟・池添学調教師と兄・池添謙一騎手の兄弟の父親は、元騎手の池添兼雄調教師。かつて騎手を目指した弟は幼少時、毎日のようにサウナに通い詰める父の姿をみて、騎手の減量の過酷さを知ると同時に、家庭内はピリピリした空気が漂っていたという。
トップジョッキーと評される面々のなかでは、身長170センチもある武豊騎手など、自身の手首を握るだけで、わずか100グラム単位で体重が分かるという。こうした超人的な感覚は、日常の厳しい自己管理の賜物といえるだろう。
プロである以上、騎乗依頼を受けたからには、レース当日までに必ず体重を落とすことは騎乗技術以前の問題。レースが近づいてから慌てて調整するのではなく、日頃から努力を怠らない騎手だけが、トップジョッキーの座に就けるチャンスを得るのだ。
今回は“高い授業料”を払った西谷凛騎手。まだ1年目で、信頼回復するチャンスはいくらでもあるはず。過去にウエイトコントロールで苦しんだ元騎手と同じ道を辿るか。それとも信頼を取り戻して、父・西谷誠騎手と肩を並べる名手となるか。試練をバネに変える活躍に期待しながら、今後に注目したい。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール>
野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。