意表を突くマクり、ベテラン騎手の執念、最も痺れたのは“4角ワープ”が決め手となった三強対決! 日本ダービー(G1)八木遊が絶賛する「名騎乗」3選!
【1位 1993年ウイニングチケット by 柴田政人】
筆者が競馬と出会って3回目のダービーは3強による熾烈な争いだった。「BNW」として知られたビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケットがその年のクラシック戦線の三強だった。
皐月賞で1番人気を裏切り、4着に敗れたウイニングチケット。勝ったナリタタイシンには0秒4差をつけられ、初めての府中、初めての左回りと不安も少なくなかった。それでも皐月賞前までの勝ちっぷりが評価され、最終的には1番人気の支持を集めた。
跨ったのは当時44歳の柴田政人騎手。「ダービーを勝ったら、騎手をやめてもいい」という発言が有名だが、それくらいこのレースには並々ならぬ思いを抱いていた。
そんな第60回ダービーは波乱で幕を開ける。スタート直後にマルチマックスの南井克己騎手が落馬。スタンド前でいきなりの出来事に胸騒ぎがしたファンは多かったはずだ。
5枠10番から好スタートを切ったウイニングチケットと柴田騎手。スタート後はスッと下げ、ライバルのビワハヤヒデをマークする形で、うまく内ラチ沿いの中団やや後方を進んだ。
やや速いペースで流れるなか、3強の3コーナーでの位置取りはビワハヤヒデが5番手、ウイニングチケットが7番手、そしてナリタタイシンは15番手(後方2番手)だった。勝負を分けたのは、4コーナー手前。岡部幸雄騎手騎乗のビワハヤヒデが先頭集団の真ん中に突っ込んでいくなか、柴田騎手はぽっかり空いた内に進路を取り、直線に入ったところではあっという間に2番手に進出していた。
ビワハヤヒデと岡部騎手の一瞬の隙をついた柴田騎手。直線では馬場のいい三分どころにうまく持ち出すと、残り400mで早くも右ムチが飛んだ。交差する形で今度はビワハヤヒデがインコースを突く。そして2頭のすぐ後ろにはいつの間にか武豊騎手騎乗のナリタタイシンが猛烈な勢いで迫っていた。
残り200mから完全に3強の争いとなるが、ウイニングチケットが最後まで先頭を譲らず。柴田騎手がついに悲願に日本ダービー制覇を遂げた。勝因は間違いなく4コーナーで見せた“ワープ”だった。最後の追い比べ、直線で響いた大声援、そして「政人コール」。いまだにこのレースを見ると鳥肌が立つのは筆者だけではないだろう。
1991年以降のダービーから個人的な思い出も含めて3つの名騎乗を選んだ。今年のダービーから、これを凌ぐような騎乗を見せてくれる騎手は現れるだろうか。
<著者プロフィール>
八木遊
競馬、野球ライター。スポーツデータ会社、テレビ局の校閲職などを経てフリーに。2021年から、Twitter(@Yuuu_Yagi11)にて全重賞の予想、買い目、年間収支を掲載中。