JRA「最低人気」の戦列復帰から下剋上! コントレイルを脅かす「わずか2カ月」のシンデレラストーリー、宝塚記念(G1)ユニコーンライオンの激走背景とは

ユニコーンライオン JBISサーチより

 先週、阪神競馬場で開催された宝塚記念(G1)は、C.ルメール騎手と初コンビとなったクロノジェネシスが勝利。これはスピードシンボリ、グラスワンダーに次ぐ史上3頭目のグランプリ3連覇であり、牝馬では史上初となる偉業を成し遂げた。

 アーモンドアイ、ジェンティルドンナ、ウオッカなどの歴史的な名牝といわれる女傑ですら無縁だった大記録の達成はさすがだ。時計の速い軽い馬場でスピードを武器とした彼女らに対し、クロノジェネシスは力のいる馬場も苦にしないタイプ。場所を選ばない万能さもまた同馬の強さの源といえるだろう。

 また、クロノジェネシスに2馬身半差で完敗したとはいえ、2着に入ったユニコーンライオン(牡5、栗東・矢作芳人厩舎)の好走にも高い評価が必要だ。

 同馬は昨年に3勝クラスを二桁着順で3連敗。8カ月半ぶりの休み明けとなった5月のストークS(3勝クラス)では、18頭立ての18番人気という最低人気。当時は単勝オッズ215.3倍の超人気薄だった。

 ところが、このレースでユニコーンライオンは勝ち馬から0秒2差の3着に入ると、次走は新潟の弥彦S(3勝クラス)を快勝して自己条件をあっさり卒業する。勢いそのまま重賞に挑戦した鳴尾記念(G3)でも8番人気の低評価を覆し、2着に3馬身半の差をつけて重賞初制覇。芝2000mのレースで前半1000m通過が62秒9の流れは超スローペース。逃げたユニコーンライオンは前残りの展開が味方したと考えられ、フロック視する声も多かった。

 ただ、後半の1000mのラップを見ると、この勝利が決してフロックではなかったことも浮き彫りになる。時計にして57秒8で上がり3ハロンは34秒1。最速の上がりを計時したブラストワンピースの34秒0とはわずか0秒1でしかない。

 しかも、この残り1000m57秒8は今年行われた芝2000mの重賞の中でも突出した数字だった。2番目に速かったのは、ヒシイグアスが制した中山金杯(G3)だが、それでも58秒9。鳴尾記念のユニコーンライオンが、いかに秀逸であるのかも伝わる数字だ。

 同馬が逃げた宝塚記念の残り1000m通過ラップ12.3-11.5-11.5-11.5-11.7から分かるように、坂井瑠星騎手は残り800mから早めのロングスパートに持ち込んでいる。距離延長に不安のあったレイパパレが苦しがった理由のひとつとして、この厳しいラップの影響は小さくなかったはずだ。

 そう考えると、今回の激走を単なるフロックと片付けてしまうのは危険だろう。

 わずか2カ月前、3勝クラスの壁にさえ跳ね返されていた馬のシンデレラストーリーに、まだ頭が追い付かないかもしれないが、これだけの短期間で急激に力をつけた上がり馬の秋は非常に楽しみである。

 僚馬のコントレイルも本来なら参戦する予定だったが、大阪杯(G1)の疲れが抜けないとして回避した今年の宝塚記念。

 しかし、ユニコーンライオンがここまでの走りを見せたなら、仮にコントレイルが出走していたとしても、先着出来たかどうかは怪しかったかもしれない。

 両馬を管理する矢作厩舎としては、嬉しい誤算となった一方、年内に現役を引退して来年の種牡馬入りを予定している厩舎の看板馬にとっては、非常に厄介なライバルが登場したといえそうだ。

(文=高城陽)

<著者プロフィール>
 大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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