JRA横山典弘「天才の感性」で令和のタマモクロス爆誕!? 1400mデビュー「ロードカナロア産駒のステイヤー」が1年ぶりの復帰!
26日に中山競馬場で行われるオールカマー(G2)は、秋競馬最初の古馬中距離重賞であり、夏を休養に充てた実力馬が、秋の始動戦として選択するレースとして有名だ。
春の大阪杯(G1)を制したレイパパレを筆頭に、4月末に香港で行われたクイーンエリザベス2世C(G1)以来、約5ヶ月ぶりに実戦を迎えるグローリーヴェイズや、5月2日の天皇賞・春(G1)5着以来の出走となるウインマリリンなど、今回も長期休養明けの古馬勢が数多く登場する。
そんな出走メンバーの中でも最長、約1年にも及ぶ休養を経てこの一戦に挑む馬がいる。骨折明けからターフに戻ってきたキングオブコージ(牡5歳、栗東・安田翔伍厩舎)だ。
2018年10月にデビューした同馬は翌19年3月、5戦目にしてようやく未勝利戦を突破。すぐさま次走は毎日杯(G3)で重賞初挑戦を果たすも、結果は9着。その素質は認められながら、なかなか1勝クラスの壁を超えることができなかった。
時は過ぎて2020年1月6日。京都7Rで勝利したキングオブコージは、自身10戦目にして1勝クラスを卒業。前走の岩田康誠騎手からチェンジした横山典弘騎手は当時、「成長を待ちながらゆっくりと調整している段階だし、まだまだ良くなってくると思います」とコメントしている。
それから同馬の快進撃がスタート。昨年3月の潮来特別と4月の湾岸Sを連勝して、2勝、3勝クラスを突破。さらに5月の目黒記念(G2)では、4連勝で重賞初制覇まで達成してしまった。
その後、休み明けの昨年10月11日の京都大賞典(G2)でも3着と好走した同馬に、陣営の期待は膨らむばかり。ところがジャパンC(G1)出走を予定していたところで、まさかの骨折が判明。無念の長期離脱を余儀なくされた同馬にとって、今回のオールカマーは約1年ぶりの実戦となる。
連敗地獄から、連勝街道驀進へ……なぜキングオブコージは変貌を遂げたのか。その要因は、やはり横山典騎手への“乗替わり”が影響していた。
同馬の新馬戦は、ロードカナロア産駒という血統背景から芝1400mでデビュー。さらに2戦目はダートの1200mを使われた。しかし結果は伴わず、未勝利脱出まで5戦を要した同馬に転機が訪れたのが、前出の1勝クラスを勝利した直後だ。
その際、同馬に初騎乗した横山典騎手は「道中で抱えながら(手綱を持ったまま)走ったほうが良いタイプ。距離は2500mくらいのほうがいい」と陣営に進言。次走で中山・芝2500mに出走すると、その言葉どおり大楽勝。続く芝2200mや、芝2500mの目黒記念まで、横山典騎手に乗り替わってから4連勝を果たしている。
テン乗りにも関わらず、キングオブコージの特長を見抜いた横山典騎手の彗眼も流石だが、ジョッキーのアドバイスに耳を傾けて馬をつくり、レースに送り出す安田翔師の判断力があってこそ。同馬が突如、変貌した裏には、騎手と調教師がお互いに信頼し合う関係性がもたらした背景があったのだ。
キングオブコージに話を戻せば、芝やダートを使われながら突如、急成長して連勝街道を驀進するあたりは、往年の名馬・タマモクロスを彷彿とさせる。昭和の競馬ファンには馴染み深い名馬も、3戦目で未勝利を脱出。重賞レースへ出走するまで10戦を要した。
その後、11戦目の鳴尾記念(G2)を制すると、1988年の春秋の天皇賞や宝塚記念(すべてG1)などを含む、重賞6連勝を達成。当時の古馬中距離重賞の常連となったタマモクロスに対して、鞍上の進言で突如、生まれ変わったキングオブコージも、現在の古馬中距離重賞で大暴れする可能性を持つ一頭といえる。
果たして同馬は「令和のタマモクロス」になり得るか。今後も注目していきたい。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。