JRA秋華賞(G1)“滑り込み”出走馬を侮るな!29年前、藤田伸二が「牝馬3冠最終関門」で見せた神騎乗

 17日に阪神競馬場で行われる第26回秋華賞(G1)。14日午後には、出走馬16頭と各馬に騎乗を予定している騎手が確定した。

 フルゲート16頭に22頭が登録していたが、まず収得賞金1500万円の5頭が除外。同1600万円の4頭が3つの枠を巡って抽選対象となった。

 オークス4着のタガノパッションが除外の憂き目に遭った一方、エンスージアズム、サルファーコスモス、ステラリアの3頭が運を味方につけ、出走にこぎつけた。

 3頭はいずれも本番では人気薄が予想される伏兵馬たちだ。しかし、昨年は6分の4の抽選を突破したソフトフルートが9番人気で3着に食い込むなど、軽視できない存在だ。

 かつては、そんな“滑り込み”で出走した馬が牝馬3冠の最終関門を制したこともあった。

 さかのぼること29年前……。1992年11月15日に京都芝2400mを舞台に行われたエリザベス女王杯(G1)がそのレースだ。

 96年に秋華賞が創設されるまでは、桜花賞(G1)、オークス(G1)に続く牝馬の3冠最終戦という位置づけだったエリザベス女王杯。この年は桜花賞馬ニシノフラワー、オークス馬アドラーブルが出走するも距離や状態に不安が残り、1番人気には前哨戦のローズS(G2)を制したエルカーサリバーが推されていた。

 この時は抽選ではなかったが、オークス3着馬のキョウワホウセキが直前に出走を回避したため、900万下(現2勝クラス)勝利の実績しかない次点のタケノベルベットが18番目の枠に滑り込んで出走が叶った。

 そんなタケノベルベットの鞍上を務めたのは当時2年目、20歳の藤田伸二騎手。1年目に39勝を挙げ、2年目もエリザベス女王杯前までに38勝。すでに重賞を2勝するなど若手の有望株として頭角を現していた。

 藤田にとってG1騎乗はこれが6度目。その年の皐月賞(G1)9着がG1での最高着順と、大舞台ではまだ結果を残せていなかった。

 条件馬のタケノベルベットもまた、18頭中17番人気、単勝オッズは91.3倍という伏兵で、「滑り込みで出走が決まった」ということくらいしか話題に上らなかったほどだ。

 しかし、まだデビュー2年目に過ぎなかったにもかかわらず、藤田は思い切った策で大金星を挙げる。

 18頭が揃ってきれいなスタートを切ると、各馬が牽制しあいながら1周目のゴール板を通過。2番人気メジロカンムリが押し出されるように先頭に立つと、1000m通過61秒7というスローペースに落ち着いた。

 12番枠から好スタートを決めたタケノベルベットは無理せず後方に控え、向正面では後方3~4番手の外めで折り合っていた。レース中盤を迎えると、さらにペースは落ち、13秒台のラップを2度刻んだ。

 そんな超スローペースを読み切ってか、3コーナーの坂の頂上手前で仕掛けたのが藤田とタケノベルベットだった。やや縦長だった馬群が凝縮する中、タケノベルベットは楽な手応えで徐々に進出。下り坂では、まるで滑り台を滑り降りるように加速し、4コーナー手前で早くも先団に取り付いた。

 抜群の手応えと脚色で最後の直線を向いたタケノベルベット。残り250m地点で先頭に立つとそのまま押し切り、最後は逃げたメジロカンムリに3馬身半差をつける快勝だった。

 人気薄だったことも藤田の思い切った騎乗を後押ししたかもしれない。しかし、ペースを読み、京都の坂を最大限に生かした“芸当”はとても2年目騎手とは思えない“神騎乗”と呼べるものだった。

 その後、藤田はフサイチコンコルドで96年の日本ダービー(G1)を制覇。長年トップジョッキーの一人として君臨し、2015年に引退するまで通算1918勝(うちG1・17勝)を挙げた。

「競馬は走ってみないとわからない」という点でタケノベルベットとキャリア3戦目でダービーを制したフサイチコンコルドは共通している。今年の秋華賞はソダシ1強ムードが漂うが、滑り込みで出走を決めた3頭にも注意を払いたい。

(文=中川大河)

<著者プロフィール>
 競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。

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