JRA「低レベル」ジャパンC(G1)も油断大敵!? もう負けられないコントレイルに風雲急を告げる刺客
先週末、ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌの活躍で日本調教馬による初のブリーダーズC(G1)制覇の偉業を達成した関西の名門・矢作芳人厩舎。
国際派トレーナーである矢作師の慧眼もさることながら、それぞれを勝利へと導いた川田将雅騎手、O.マーフィー騎手の好騎乗もあった。厩舎スタッフ一同で手に入れた快挙には、“厩舎力” の素晴らしさも光る歴史的瞬間だった。
だが、1日で米G1を2勝と飛ぶ鳥を落とす勢いを見せつつも、青写真通りに事が運んでいないのが厩舎の看板馬であるはずのコントレイル(牡5、栗東・矢作芳人厩舎)だ。
昨年は父ディープインパクト以来となる無敗でクラシック三冠のタイトルを手に入れた名馬ながら、同年の牝馬三冠馬デアリングタクトと挑んだジャパンC(G1)でアーモンドアイの前に完敗。史上初となる牡馬の三冠馬が年度代表馬の座を奪われるという屈辱も味わった。
コントレイルという馬に付きまとうのは、やはり「ツキがない」というイメージだ。
これまでの敗戦を振り返っても、ジャパンCは香港遠征から予定変更でアーモンドアイが参戦。大阪杯(G1)は突然集中した降雨により苦手の重に悪化した馬場で不完全燃焼となり、秋の天皇賞(G1)では3歳馬エフフォーリアに勝利を阻まれた。これらについては同情したくなる余地も残されている。
勿論、コントレイルにこれらを跳ね返せるだけのポテンシャルの高さがあれば、杞憂に終わったかもしれないが、有馬記念(G1)や春の天皇賞(G1)を回避するなどして徹底的に苦手な条件から目を逸らした結果だけに、過去の三冠馬と比べるとどことなく“カッコ悪い”印象が拭い切れないことも確かである。
そんな「不運の名馬」がついにラストランを迎えるジャパンCの舞台は、これまでと異なってむしろ超幸運が訪れたといえるだろう。何しろこれまで敗れた相手であるアーモンドアイはすでに引退。レイパパレはエリザベス女王杯に出走し、エフフォーリアの次走も有馬記念と発表されたからだ。
ジャパンCは国際レースとはいえ、近年の外国馬はとりあえず参加したというクラスの馬も多かった。年々その価値は低下する一方で、2019年にはついに外国馬の出走がゼロという憂き目にもあった。
それだけに是が非でも有終の美を飾りたいコントレイル陣営にとっては、強敵のいない低レベルのジャパンCは「絶対に負けられない」レースとなる。怖い存在がいるとすれば、日本ダービー(G1)でエフフォーリアを倒した3歳馬シャフリヤールくらいか。
ただ、あのときは鞍上である福永祐一騎手の神騎乗による援護射撃も大きかった。今回はその福永騎手がコントレイルなら戦力低下は避けられない。
少し気になるのは、7日のアルゼンチン共和国杯(G2)で無類の強さを見せたオーソリティの動向だ。
同馬はプラス12キロで復帰した府中の芝2500mを、トップハンデ57.5キロを背負って2着馬に2馬身半の差をつける大楽勝を演じ、昨年に続いて同レース連覇を楽々と達成してみせた。
昨年はジャパンCを見送って有馬記念に出走したが、東京コースはこれまで4戦3勝2着1回とほぼ完璧な成績が表すように得意条件。かつてはアルゼンチン共和国杯からジャパンCというローテーションも珍しくなかっただけに、出てくるようなら風雲急を告げるといったところだろう。
消し飛ぶのは安泰ムードか、それとも三冠馬への不安か。ブリーダーズCターフ(G1)2着のブルーム、同4着のジャパンも参戦する今年のジャパンCは面白くなってきた。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。